なぜ急ぐ? 「名古屋市博物館」の大改修 あわただしい計画に「抜本的な見直しを」の声も
「検討不十分」と市民団体
しかし、このあわただしい改修計画に、自然・歴史系の市民団体が疑問の声を上げている。 その中の一人が、市民団体「志段味の自然と歴史に親しむ会」世話人で、郷土史家の高木傭太郎さんだ。高木さんは「170億円という総事業費は60ページ近くある計画案本文の最後の方に何の説明もなく書いてあるだけ。改修ではなく新築案も検討されたのか、多分野にわたる専門家の検討があったのかも分からず、これで市民が判断することはできない」と訴えており、仲間と一緒に「計画の抜本的な見直し」を求める要望書を2月14日、市長や教育長、博物館長宛てに提出した。 高木さんたちは事業費についても問題視する。「同じ愛知県の豊田市で2024年開館を目指して新築されている豊田市博物館と比べると、総工費約88億円と公表されている豊田は1平方メートル当たりの単価が120万円程度であるのに対し、名古屋は148万円。極めて高価だ」と指摘。「改修の割には金額が大きい。幅広い専門家の検討も不十分だ」と憤る。
このような高木さんたちの声を博物館側にぶつけてみると、次のような答えが返ってきた。 「今回の計画は、中長期的な公共施設の維持管理や更新を計画する名古屋市の『アセットマネジメント』の方針に沿っている。建物の長寿命化を図るために新築ではなく改修が適当だと判断されている」 「今回は改修なので、専門家による検討委員会的なものは設けていない。折に触れて専門家には意見を聞いている。今後は展示の設計段階でさらに有識者の意見も聞く予定だ」 愛知県には県立博物館がない。全国47都道府県の中でも、こうしたところは少なく、名古屋市博物館は「県立」に匹敵する規模や機能を求められてきたところがある。しかし、今回の大改修計画を進めるにあたって、愛知県や日本博物館協会などと協議した様子はなく、建築やまちづくりなど、広い視野からの専門的な検討も乏しいと言える。「改修だから」と、あわただしく作ったように見えてしまう現在の計画は、幅広い市民の期待に応えるものになっているのだろうか。
■公共建築施策に詳しい名古屋大学大学院、恒川和久教授(建築計画、都市計画)の話
改修にしては単価が高い印象はある。建物の老朽化や展示の陳腐化の課題は確かに解決しなければならないが、改修でも壁や天井を一度すべて取り払って造り直すなど、もっと思い切った工夫が限られた予算内でもできると思う。なにより、計画案の全文を読んでも名古屋市の文化施策の中で博物館をどのように位置づけて、どのような役割を果たすものにしたいのかが見えてこない。市内では他にも名古屋城やリニア関連などの大規模なプロジェクトが動き出すが、それらと連動せず縦割りで動いていないだろうか。市民的な議論が必要だ。 (関口威人/nameken)