「恋」とは、「好き」とは、「わかり合う」とは? 橘ももが、本質的な問いを投げかける小説『恋じゃなくても』。「私が考えている“途中”のことを見せていく」【インタビュー】
いつか、はとこの作る和菓子とコラボしたかった
――繕の作る和菓子の数々も、重要な役割を果たしていますね。時に芙蓉と凪をほっとひと息つかせたり、相談者にメッセージを伝えたりしています。 橘:ほとんどが、私のはとこが作った和菓子をモデルにしています。繕と同じフリーの和菓子職人なんですよ。表紙にも、実際に彼女が作った和菓子を使わせてもらいました。彼女の作る、すごく美しい上にちゃんとおいしい和菓子を食べて以来、コラボできたらいいなとずっと思っていて。今回、もともと書きたいと思っていた話と結びついて物語にできたことが、本当にうれしかったです。 ――そうだったのですね! もともとあった和菓子なのですか? 橘:赤い“あまてらす”は小説で初めて書いたオリジナルの和菓子で、今回、新たに作ってくれました。結婚相談所の名前「ブルーバード」の元になった“カササギ”が飛んでいる羊羹や第1話の“菖蒲”などほかのものは、彼女がもともと作っていたものです。話の流れと季節に合うものをピックアップして、小説に使わせてもらいました。季節のうつろいを示す「七十二候」の文も彼女が書いたものが素敵だったので、お願いして一部、そのまま載せています。 この小説を書いている間、和菓子センサーがすごく敏感になっていたんですよ。京都に行った時にも、普段通らない道を通ったら、おいしそうな和菓子屋さんを見つけて……それまでの私なら素通りしていたと思う(笑)。そこで売っていたのが“したたり”なんです。 ――繕が自作ではなく、凪への手土産として持って来た“したたり”ですね。作中では〈琥珀色のぷるぷるとした塊〉で〈黒糖のうまみを凝縮したような……だからといって重たいということもなく、口当たりはすごく軽い〉と説明されていて、想像がふくらみました。 橘:これは、京都で実際に食べられるので、ぜひ(笑)。読んだ人に、和菓子は良いものですよ、ということも伝わってくれたら嬉しいです。 取材・文=門倉紫麻、撮影=冨永智子