「恋」とは、「好き」とは、「わかり合う」とは? 橘ももが、本質的な問いを投げかける小説『恋じゃなくても』。「私が考えている“途中”のことを見せていく」【インタビュー】
法的な結びつきがなくてもいい。でも「そうはいってもさあ」となる
――芙蓉は、登場時から魅力たっぷりに描かれます。さっそうとしていて華やかで、強く優しく、さらにはお金持ちで教養もあって……。でもスーパーウーマンのように見えていた彼女の印象が最終話でガラリと変わり、驚きと同時に胸をうたれました。 橘:芙蓉さんを、ただカラッとしていて「そんなのいいのよ!」みたいなことを言う人にはしたくなかったんです。本当は、誰よりも歯を食いしばって、いろんなものを背負って生きてきたのに、苦労があまり表ににじまないタイプの人っていますよね。周りに苦労を話したり助けを求めたりするのが苦手だし、責任感も強く能力もあるから一人でなんでもやれてしまう。でも優しい人ほど、実は誰より傷ついた経験を持っていたりするよなと。 ――芙蓉の傷ついた経験が明かされて、それがあるからこその今なのだとわかって、より彼女を好きになりました。芙蓉と凪との「バディもの」を意識して書かれたそうですね。相談員とその助手、という2人です。 橘:仕事を介してつながる関係が好きなんですよね。私は昔から、人との距離をうまく取るのが苦手で……愛情だけでつながるのがすごく不安なんです。仕事でなら、向こうが私を必要としているし、私はちゃんと返せるものがある、と明確なので安心できます。 ――凪は芙蓉と、一部のみですが生活を共にしています。また、和菓子職人の繕は、長年芙蓉と関わりを持ち続けていて、さらに繕と凪の間にもある関係が生まれる。作中に〈たとえ血のつながりがなくても、法的に結びあう関係でなくとも〉という言葉もありますが、こうした名前のない関係が魅力的に描かれていて、前作「忍者だけど、OLやってます」シリーズから橘さんの中にある「誰かと一緒に生きていくとは?」というテーマが今作にも感じられました。橘さんの中で、考えが熟したり変化したりは? 橘:それほど変化はなくて、むしろずっとわからないというか……そのつど「こういう形もあっていいんじゃないかな」と思いながら、模索している感じです。私自身、世間的にこうあるべきと思われている型にはまりたくてしょうがなかった人間なので、法的な結びつきを求める気持ちはわかるんです。誰かに選んでもらえたという確証もほしいし、そもそも社会的に堂々と承認してもらえたら、安心しますよね。でも、その型からどうしても外れてしまう人はどうすればいいのかを、考えてみたいと思いました。私はずっとフリーランスで働いてきて、結婚も出産もせずに40歳を迎えながら、いまだに「自分はこれでいい」と「本当に?」をいったりきたりしているので、大丈夫と思いたくて書いているところもあるかもしれません。