「恋」とは、「好き」とは、「わかり合う」とは? 橘ももが、本質的な問いを投げかける小説『恋じゃなくても』。「私が考えている“途中”のことを見せていく」【インタビュー】
わかり合えない相手とも「どうしたらわかり合えるかな?」と考えてしまう
――橘さんの、そうした人に寄り添うやわらかな姿勢が、作品に貫かれているのを感じます。愛情があるのにセックスをしたくないと感じる人、相手に「思いやりがない」と感じる人など、悩んでいる相談者に芙蓉も凪も「こうせよ」と告げたり、その交際相手を断罪したりはしないですね。相談者それぞれが自分で道を探るサポートをした結果、グレーでいることを選びとったりもしています。 橘:もちろん別れる選択をしてもいいと思うんです。でも、私は苦手なんですよね、断ち切るのが。相手を理解するために、「相手の立場になってものを考えましょう」と言われることがありますが、自分をそのまま相手の立場に置いても「私なら、そんなことはしない」で終わってしまう。自分の価値観は、いったんよそに置いてみて、相手を解釈し直してみる、ということも必要なのかなと思います。 「こうしたらわかり合えます!」と書きたいわけではないんです。先ほど言ったように、私もいまだ模索中なので、「こんなケースだとどうでしょう?」とみんなと一緒に考えていきたいんですよね。ただ作中にも書きましたが、お互いの欲求が食い違った時に、それでも一緒にいたいのか自分の気持ちを見極めなければいけない時は来る。その日まで、考えて、あがく……それが、私自身が生きていく上でのテーマでもあると思います。 ――浮気をした凪の婚約者・稜平との「わかりあえなさ」の解像度がすごかったです。浮気相手とうまくいかなくなり、凪とやり直したいと無理に話をする稜平が〈俺が浮気しても凪は平気なんじゃないか、なんとも思わないんじゃないか。結婚さえできれば、相手は俺じゃなくてもいいのかもしれない、って〉と言い、凪は――この人はいったい、私の何を見てきたのだろう〉と感じて、静かな怒りを表明します。 橘:あそこはちょっと断罪が入ってしまいましたね(笑)。凪が怒っていたので、私も怒ってしまいました。怒るべき時は怒ったほうがいいし、無理ですと言わなければいけないと思います。でも稜平は稜平で、傷ついていたことも事実なんですよね。積極的に甘える、みたいな愛情表現を相手に求める稜平にとっては、凪のとる行動はすごくつらかっただろうと思います。“好き”がわからない凪のことを肯定する物語ではあるけれど、それに傷ついている人もいるのだ、ということも書いておきたいと思いました。