大規模伐採ではなく「自伐型」林業を――100年、200年の「山」をつくる挑戦者たち
自伐型林業に取り組む移住者が順調に増えている佐川町だが、今の課題は「山の確保」が追いつかないことだ。そのため、来年度は自伐型林業への就業を目的とした地域おこし協力隊の募集を停止することにした。あえて立ち止まった理由を下八川課長はこう説明する。 「自伐型林業に興味を持って移住したのに、協力隊の任期満了後に林業ができる山がなかったらみんな不安になってしまいます。今は新規をいったんストップし、山の確保や集約を全力で進めていきたい」
「よそ者」を受け入れる風土
佐川町の取り組みを調査した、法政大学現代福祉学部の図司直也教授(農村政策論)はこう話す。 「今、地域おこし協力隊で自伐型林業をしたいという人が増えていますが、自治体によっては大規模林業を推進しているため方向性が合わず、あきらめるケースもあります。その点、佐川町は一貫して小規模な林業の担い手育成に重点を置いています。また、林業とその他の仕事を組み合わせ、生活の基盤を作っていこうと考えていることも、今の移住希望者の考え方と合っています」 佐川町で自伐型林業をする人は多彩だ。3Dプリンターを使う木工作家や、林業を副業にして町議会議員になった人もいる。図司教授は続ける。 「移住政策というと、自治体から移住者に出されるお金の総額が注目されがちです。しかし、今の若い人たちが移住先に求めているのはお金だけではありません。地域の人たちと一緒に課題を解決し、次の世代につなげていきたい。そういった新しいタイプの『よそ者』を受け入れる風土があると、若者たちは喜んでSNSで発信していく。そして、さらに移住者が集まるという循環が生まれていくのです」 NPO法人「自伐型林業推進協会」によると、過去9年間に開催したフォーラムや勉強会の参加者は5万人を超え、実際に自伐型林業を始めた人は全国で2500人以上いるという。災害のリスクを抑え、持続可能な山林や地域の実現を目指す林業家たちの輪は、確実に広がっている。
ーーー 西岡千史(にしおか・ゆきふみ) 1979年、高知県生まれ。2006年、早稲田大学第二文学部卒。「THE JOURNAL」「週刊朝日」「AERA dot.」編集部記者を経て、現在はフリーランスの記者として活動している。