冷暖房なし、工具費は自腹。人の命を預かっているのに――人材不足が深刻化する自動車整備士の窮状
「人の命を預かっているのに、手取りは15万円」。25歳の男性自動車整備士は言う。男性の職場に冷暖房設備はなく、夏には熱中症のような症状が出る。自動車整備士は、車の利用者が安全に乗れるように整備することから、「カードクター(車のお医者さん)」とも言われている。一方、自動車専門学校の入学者はこの15年で半減。人材不足が深刻だ。現状を取材した。(取材・文:板垣聡旨/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
資格手当は1万円。40万円以上の工具代を自腹で負担
埼玉県の熊谷駅の近くで、自動車整備士の吉田優太さん(仮名、25)に会った。吉田さんは整備士として働き始めて、4年目になる。 自動車整備士は国家資格で、一級、二級、三級、特殊の4分類に分かれ、車種でさらに区分がある。高校卒業後に専門学校へ通い、資格を取得して働き始めることが多い。吉田さんは埼玉県にある自動車大学校で、在学中に一級小型自動車整備士の資格を得た。同資格は他の整備士らに指導できる立場となる、もっともレベルの高い資格だ。 2018年3月に卒業し、翌月から外車で有名な大手ディーラーの整備工場で働き始めた。もともと、整備士の待遇や労働環境については知っていて、覚悟していたつもりだった。だが現実は、想像以上だったという。 「残業がない月は手取りが15万円です。残業が40時間を超えていた時でも18万円。ボーナスは10万円にも届きませんでした。一級の資格を持っているのに、資格手当はたったの1万円です」
必要な工具も会社で支給されず、これまでに40万円以上、自分で購入してきた。冷暖房設備がないなど、労働環境も過酷で、昼食の時間が取れないこともある。 「夏の熊谷は暑くて、室内気温が43度になる時も。頭痛がしたり、意識がもうろうとしたりします。冬は手がかじかんで、手先があまり器用に動きません。そんな環境で、整備士が6人在籍し、1日に1人あたり4~6台の車を整備しています。忙しい時はコーラ1本飲むのがやっとです」 別店舗に異動しても、冷暖房設備はなく、給与面も変わらなかった。将来を考えると、「このままでいいのか」と悩むものの、転職には踏み切れていない。 「僕がいないと回らなくなってしまうんです。去年入った新人は『試用期間が終わってもうすぐ本採用だね』と言っていたら、急に来なくなって。退職代行業者から手紙が届きました。車の整備士ってお客さんの命を預かるようなものなのに、なんでこんな状態なんだろう」