大規模伐採ではなく「自伐型」林業を――100年、200年の「山」をつくる挑戦者たち
雑誌編集者から林業へ
1期生の滝川景伍さん(39)は、佐川町に移住するまでは東京の出版社で雑誌編集者として働いていた。仕事は忙しく、終電で帰宅することが多かったため、子育ては妻に任せっきりだった。 「30歳になる前に『本当にこのままでいいのかな』と思っていた時に、自伐型林業を紹介するテレビ番組を見たんです。『自伐型』っていう名前が面白いなと思って調べたら、佐川町が自伐型林業で地域おこし協力隊を募集していることを知って、すぐに応募しました」 佐川町に来てからは子どもが1人増え、今は4人暮らしだ。滝川さんは朝、子どもを保育園に送り、家事をした後、山に入って作業をする。夕方5時までには山を下り、子どもを迎えにいく。町外で働いている妻が帰宅したら、全員で一緒に夕食を食べる。東京のときとは一変した生活だ。
佐川町は、支援政策のうち「山林の集約化」にも力を入れている。山林は細かく持ち主が分かれていることが多い。しかも、山主は見ず知らずの移住者に山を売ったり、貸したりすることへの抵抗感が強い。そこで佐川町は、隊員が任期満了した後も林業ができるよう山主それぞれと交渉し、町が20年間の管理代行契約を結び、大きな面積に集約している。 作業道への補助も、町と高知県で合計して1メートルあたり2000円を支給している。さらに作業道をつくるためのパワーショベルなどの重機も町が購入し、1日500円程度で貸している。まさに至れり尽くせりのサポートだが、前出の下八川課長はこう話す。 「将来的には、補助金なしで林業が成り立つことを目指しています。水田の基盤整備が税金で実施されているのと同じように、作業道の整備は林業が自立した産業になるために欠かせません。山主にとっても町にとっても、災害に強く、良い木が育つ山になることはメリットが大きく、今は積極的に公金を使って人を育てる時期だと考えています」
林業だけで年収225万円
滝川さんの昨年度の収入を具体的に紹介する。仲間と約1.6kmの作業道をつくって320万円の収入を得た。そのほか、作業道を通すときに伐採した木や、間伐した木の売却などで約726万円。そこからガソリン代や重機のリース代などの経費を差し引くと、利益は約540万円。そのうち滝川さんの取り分は225万円だった。1年間で林業をしたのは150日なので、日当にすると約1万5000円になる。 林業をしない日は、出版社での経験を生かして郷土史の編集などをしている。トータルの収入は出版社時代と比べて少ないが、町で暮らす分、支出も少ないため、最低限の生活はできているという。 ウッドショックで木材価格が高騰するなか、もっと木を伐採すれば高い収入を得られる。しかし、滝川さんはそれをやらない。 「売れる木を切るのではなく、良い木を残して育てていきたい。稼げるからと皆伐をしたら、山のふもとにある家が豪雨の時に被害を受けるかもしれない。100年、200年経っても、地域の人たちに親しまれて、みんなで見守っていけるような山をつくっていきたい」