大規模な伐採、豪雨により「土砂崩れが多発」 見直し求められる林業政策 #災害に備える
近年の記録的豪雨で、土砂崩れや河川の氾濫などが相次いでいる。実際にいくつかの被災地を回ってみたところ、森林を広範囲に伐採した「皆伐(かいばつ)」の跡地から土砂崩れが起きているケースが目についた。伐採で山の保水力や抵抗力が弱まったところに豪雨が直撃し、崩落が起きているようだ。国は林業を成長産業としているが、豪雨への対策は必要ないのか。林野庁や被災者らに話を聞き、実態を探った。(文・写真/ジャーナリスト・西岡千史/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
土砂崩れに襲われた女性
「山津波」という言葉がある。大雨や地震によって山間部の土砂が急激に流れ落ちる現象のことだ。2020年7月の熊本豪雨では、この山津波や球磨川の氾濫で死者67人(災害関連死2人を含む)、行方不明者2人を出した。家屋被害は全壊1493棟、半壊3117棟に上った。 土砂崩れに襲われながら一命を取り留めた人もいる。同県八代市坂本町の森ユリコさん(82)だ。当時の様子をこう話す。 「7月4日の朝5時ごろやった。あんまり雨が降るけん、避難しようと思うて軒先に出たとですよ。そしたら、裏山からの土砂が家の中に入って来て、そのまま5メートルぐらい流された。たまたま物干し竿があってつかまることができたから助かったけど、谷まで流されてたら命はなかったですよ」 森さんの自宅の裏山は7年ほど前、伐採業者によって広範囲に伐採(皆伐)されていた。裏山からの土砂崩れで森さんの自宅は全壊したが、業者から謝罪や補償はなかった。
山からの水の流れが速かった
市町村別で最多となる25人が犠牲になった球磨村も、皆伐の跡地から土砂崩れが起きていた。同村神瀬高沢の高沢英輔さん(79)は振り返る。 「朝起きたら玄関まで水が来ていて、靴が浮かんどった。石がゴトゴト流れる音も聞こえて『山が崩れたな』と思った。外では家や車も流れたとよ。今は山の木が切れとるとでしょ。だから、(山からの)水の流れが速かったとです」 高沢集落は、球磨川のそばを走る国道219号から車で20分ほど上った標高400メートルの山あいにあり、当時は73世帯が暮らしていた。集落を流れる中園川は山からの土石流で埋まり、すぐに氾濫。8棟の住宅が全半壊し、全世帯が避難生活を余儀なくされた。