ホールもエスカレーターも金メッキ。58階建てなのに居住フロアを「68階」と呼び…。トランプタワーの中で気づいたトランプ的<強さ>の秘密とは
「今日、歴史と文化がますます情報戦の武器となり、政治的な動員のための旗幟となっている」――。そう語るのは、評論家・近現代史研究者として各国の博物館や史跡を調査する辻田真佐憲さんです。今回は、辻田さんが約2年半におよび国内外の「国威発揚」をめぐった成果をまとめた『ルポ 国威発揚-「再プロパガンダ化」する世界を歩く』から、米国・トランプ・バーについてお届けします。 【写真】トランプ・バーで提供される<トランプ・ワイン>は次男のエリック氏が経営するトランプ・ワイナリーの商品。実に商売上手 * * * * * * * ◆トランプ・バーでトランプ・ワインを味わう トランプタワーは、セントラルパークのすぐ南、マンハッタン中心部の五番街にそびえ立っている。道路に面したビルの一角はまるでノコギリの刃のようにギザギザした独特のデザインをしており、一目で見るものに強烈な印象を与える。 このあたりはニューヨークでも指折りの裕福なエリアであり、ブルガリ、シャネル、プラダなどの有名なブランドがしのぎを削り、トランプタワーの1階にもグッチが入店し、タワー隣にはティファニーが店を構えている。このティファニーは、かつてオードリー・ヘップバーン主演の映画『ティファニーで朝食を』のロケが行われたところだ。 若き日のトランプ前大統領(取材時。以下敬称略)は、この華やかな場所で勝負に打って出た。 ニューヨークの周辺区(アウターボローズ)にて中産層向けの地味な不動産開発で財を成した父を超えるため、マンハッタンでリスクの高い投資をあえて行い、1983年、わが名を冠した複合ビルを建てたのだ(建設にあたっては、ポーランドからの不法移民が安価で大量に雇われたと指摘されている)。 地上58階建てだが、トランプはみずからが住む最上階を68階と呼んだ。安倍元首相が、トランプの大統領当選後にゴルフのドライバーをもって駆けつけたのもここだった。トランプタワーは、まさにトランプの富と上昇志向と大言壮語癖の象徴なのである。
◆トランプタワーの低層階 わたしが訪問したとき、トランプタワーの入口前には警備員が立ち、柵が設けられていたが、大統領時代ほど物々しいものではなかった。トランプに抗議するひとは、道路の反対側で静かに「トランプの二期は刑務所」「トランプは哀れな敗北者」などと看板を掲げていた。 トランプタワーの低層階は、アトリウムとして公開されており、だれでも立ち入ることができる。ブレッチア・ペルニーチェという赤みがかった大理石が全面に使われた豪華な吹き抜けを見上げると、5階分の滝が優雅に壁をつたって流れていた。 エレベーターホールも、エスカレーターも金メッキ。成金趣味であまり上品な印象を受けなかったが、トランプの金ピカなイメージには完全にマッチしていた。 そんなアトリウムには、トランプブランドのさまざまな店が入店していた。トランプ・カフェ、トランプ・グリル、トランプ・バー、トランプ・スイーツ。広々としたつくりの店々のなかで、ロジャー・セワニ氏の土産物店はわずかなスペースを占めるにすぎず、一目でそこが“外様”にすぎないことがわかった。
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