ホールもエスカレーターも金メッキ。58階建てなのに居住フロアを「68階」と呼び…。トランプタワーの中で気づいたトランプ的<強さ>の秘密とは
◆シェアしたくなる「ネタ」的政治家 じつはトランプ自身はアルコールを一滴も飲まない。にもかかわらず、客たちはかれの写真をみながらワイングラスを傾けている。いかにも虚実の入り混じったトランプワールドらしい体験だった。飲食店のメニューには「MAGAバーガー」や、長女の名前を取った「イヴァンカ・サラダ」があったが、これらとて本人が食べたかどうかわからない。 トランプという人物は、いわば壮大な「ネタ」である。かれは長らくメディアを駆使しながら、金ピカでキッチュな独特のキャラクターを作り上げてきた。 経営するカジノを倒産させながらも成功者を気取り、女性問題でゴシップ誌を騒がせては放言を繰り返す。そのため、どんな爆弾発言をしたところで「だってあのトランプだから」と流されてしまう。 たとえ刑事裁判で負けたとしても、その人気が揺らぐことはほとんどない。これこそトランプ最大の強みだ。バイデン大統領やハリス副大統領(いずれも取材時)のような、リベラルな政治家ではそうはいかない。
◆笑いが力に変換される かつての指導者は、すべてを見通す無謬(むびゅう)の天才として演出されていた。そのため、茶化すことでその権威を引き剥がすことができた。今日はちがう。ネタとして面白がられているうちにどんな批判も無効化してしまう、じつに厄介な存在なのである。 言い換えれば、ヒトラーのちょび髭は笑ってはならないものだったが、トランプの髪型は笑いの対象にできる。それどころか、その笑いがかれの力に変換されてしまう。トランプタワーで売られている土産物もその一端を担っており、けっして侮るべきものではない。 このSNSの時代、トランプ的な「思わずシェアしたくなる」政治家は「下からの参加」を調達しやすく、ますます台頭してくるだろう。 そのような動きは、やがて来たる「個人崇拝」の原動力になるかもしれない。この「個人崇拝」を支えているのは、全体主義や秘密警察ではなく、高度な消費社会であり、SNSで駆動される資本主義なのだ。そう考えると、われわれの日本でも政治家のネタ化が進行しているのではないかと感じ、薄ら寒い思いにとらわれた。 ※本稿は、『ルポ 国威発揚-「再プロパガンダ化」する世界を歩く』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
辻田真佐憲
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