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野球殿堂入り投票 松井秀喜は日本ではいきなり選出で、アメリカでは今回のみで候補者から消えるか

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:ロイター/アフロ)

野球人にとって究極の「上がり」は野球殿堂入りだろう。日本では、名球会が独自のステイタスを誇っているが、それでも殿堂入りは別格だ。2018年は日本では1月15日、アメリカは現地時間24日に投票結果が発表される。そう、日米とも殿堂入り投票結果の発表は、球界にとって毎年最初の大行事なのだ。

そして、今回は松井秀喜が日米で候補者としてノミネートされている。恐らく、日本では資格を得て初年度の今回でいきなり殿堂入りを果たすだろう。一方で、アメリカでは候補者リストに名を連ねるのは残念ながら今回だけとなりそうだ。

野球殿堂入り投票は、そのメインとなる引退後5年を経た元選手対象においては、日米とも投票権を持つ記者の連記方式で75%の得票を得れば晴れて選出となる。もっとも資格保持期間には制限があり(敗者復活ルートもあるが)、日本は15年でアメリカは10年だ。

松井は日本の投票では圧倒的な票を獲得するだろう。前年からの繰り越し組には立浪和義がおり(前年65.2%)、今回新規に資格を得る他の候補者も金本和憲らの有力候補者がいるが、松井の日本での文句なしの成績とメジャーで10年を戦い抜いた事実、国民栄誉賞の箔、これらの投票権を持つ記者へのアピール度は抜きんでている。

一方、アメリカではどうだろう。メジャーでの通算打率.282はともかく、1253安打、175本塁打は、積み重ねの記録が重視される殿堂入り投票では、正直なところいかんともし難い。近年重視されるセイバー指標でも、WARは21.3(Baseball-Reference版)でしかない。これはその3倍はないと話にならない。また、米の殿堂入り投票はこの数年空前の有力候補者ラッシュにある。一人一人名を挙げるのは割愛するが、バリー・ボンズらの薬物疑惑組を除いても、10名連記の中に松井が入り込む余地はほぼ皆無と言って良いだろう。ヤンキースでの同僚で、松井同様に今回初めて候補者となったジョニー・デーモン(2769安打、WAR56.0)あたりですら、翌年以降に資格を持ち越せる下限である得票率5%に達せない可能性は否定できない。松井に1票でも入ることがあれば、その記者は見識が問われると言っても良い。

「日米合算で評価すればどうだ?」という声はあるかもしれない。たしかにそうすれば通算本塁打はNPBでの332本を加え507本となる。しかし、メジャーだけで493発のフレッド・マグリフ(今回9回目の挑戦)ですら前回は21.7%と全く歯が立たない状況だ。また、日本での実績を加味してもらえる可能性は皆無だ。これは、「韓国での実績を考慮し、イ・スンヨプを日本の殿堂に入れよ」と主張するのと同じくらいナンセンスだからだ、と言えば理解してもらえるだろうか。

そもそも特別表彰的な意味合いのカテゴリー以外で外国リーグでの実績を考慮すべきではないと思う。それを言い出せば、アンドルー・ジョーンズもメジャーでのパフォーマンスを評価し、日本の殿堂に入るべき、ということになる。その意味では、野茂英雄が資格を得た初年度の2014年にプレーヤーズ表彰でいきなり殿堂入りしたのもぼくにはちょっと理解に苦しむことだった。日米通算では201勝だが、NPBでは78勝でしかない(その間新人王&MVPに加え、最多勝利と最多奪三振もそれぞれ4度獲得しており、これだけでも殿堂入りに値するという見方もあるが)。

彼が、日本人メジャーリーガーの先駆けとなったことの歴史的意義を評価する声が大きかったのは事実だが、それは結果である。彼に続く選手が多く現れたことには、BS放送の普及期に符合したこと、その後ポスティング制度が立ち上がったことなど野茂のコントロール外の要素も作用している。史実としての重みと選手としての評価を混同すべきではない。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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