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ハーベイ・ワインスタインのセクハラ:ブラピ、アンジー、グウィネスも昔から知っていた

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
1999年オスカー授賞式のグウィネス・パルトロウとハーベイ・ワインスタイン(写真:Shutterstock/アフロ)

 ハーベイ・ワインスタインのセクハラは、ハリウッドのパンドラの箱だった。5日(木)、「New York Times」がその箱を開けてから、 続々といろいろなものが噴き出してきているのだ。アメリカ時間本日10日(火)には、「New Yorker」誌が、さらに驚きの事実を暴露。それから数時間後、「New York Times」も、同紙のサイトに続報記事をアップした。

 5日に最初の記事が出た時、ハリウッドは異常なほど沈黙を守っていたのだが(ハーベイ・ワインスタインのセクハラ暴露騒動が明かした、ハリウッドの偽善者ぶり)、8日(日)にワインスタインが自分の会社ザ・ワインスタイン・カンパニー(TWC)をクビになった後には、メリル・ストリープ、ジョージ・クルーニー、ジェニファー・ローレンス、ジュリアン・ムーアなど、数人のセレブがコメントをしている。彼らは、同様に、ワインスタインの行動を「弁護の余地がない」と非難しながらも、「自分はまったく知らなかった」「驚いている」と語った。この人たちは全員、ワインスタインにキャリア上の恩がある。クルーニーはミラマックスの「コンフェッション」で監督デビューを果たしているし、ストリープは「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」で、ローレンスは「世界にひとつのプレイブック」でオスカーを受賞した(『マーガレット・サッチャー〜』でゴールデン・グローブを取った時、受賞スピーチでストリープはワインスタインを『神』と呼んでいる)。

 彼らの主張について、ソーシャルメディアには、「知らなかったなんて、あるか?」といった疑問の声が飛び交っていたのだが、本日出た記事2本は、ますます彼らの発言の信ぴょう性を揺るがせることになった。これらの記事を読めば、ミラマックス時代からTWC時代までの20年以上にわたり、何度も繰り返されてきたこれらの行動について、ワインスタインの社員はもちろん、タレントエージェントや女優仲間、また、近年は警察も、知っていたことがわかる。

 たとえば、「New York Times」の続報では、かつて“ミラマックスのファーストレディ”とまで呼ばれたグウィネス・パルトロウが、被害に遭ったことを告白している。当時、彼女は22歳。ワインスタインが製作する「Emmaエマ」で、キャリア初の主演に抜擢されたところだった。

 ワインスタインとビバリーヒルズのペニンシュラ・ホテルでミーティングがあるというのを、パルトロウは、L.A.に向かう時に、エージェントからもらったスケジュール表で知る。彼女が所属するエージェンシーCAAは、ハリウッドの超大手で、彼女は何も疑わずにホテルに向かった。しかし、ホテルの部屋で、ワインスタインは彼女にマッサージをしようとし、ベッドルームに行こうと誘う。ショックを受けた彼女は、ただちに部屋を出て、当時の恋人ブラッド・ピットに、この話をした。ピットは、次にある映画のプレミアでワインスタインを見かけた時、自分から近寄っていき、二度とパルトロウに触れるなと警告。このことはワインスタインの逆鱗に触れ、パルトロウは「Emma エマ」から降ろされるのではないかと恐れたが、なんとかそれは逃れ、その後も、彼女にオスカーをもたらした「恋におちたシェイクスピア」など、いくつかミラマックスの作品に出演することになる。パルトロウは、ピットのほかに、家族、友人数人、またエージェントにも、この話をしたとのことだ。

 それから3、4年して、今度は、後にピットの妻となるアンジェリーナ・ジョリーが被害に遭っている。ミラマックスの「マイハート、マイラブ」に出演したジョリーは、やはりワインスタインからホテルの部屋で迫られ、拒否。以後、ワインスタインとは仕事をしないと決めた。

 ジョリーとピットは2005年に交際を始め、昨年秋にジョリーが離婚申請するまで一緒だった。この間、おそらくジョリーは、なぜ自分がワインスタインと仕事をしないのかについて、ピットに語っているだろう。つまり、ピットはふたりの身近な実例を知っているのだ。ピットの親友であるクルーニーは、本当に何も知らなかったのだろうか。

セクハラだけでなくレイプもしていた

 パルトロウとジョリーは、なんとか最悪の事態を逃れたが、逃げられなかった女性は、たくさんいる。「New Yorker」によると、レイプされた女性も3人わかっているとのことだ。

 被害者のひとりは、イタリア人女優で映画監督のアーシア・アルジェント。彼女の主演映画「Bモンキー」の北米公開を手がけたのはミラマックスで、1997年、カンヌの超高級ホテルで開かれるというミラマックスのパーティに招待された時、アルジェントは、仕事上、行く義務があると思ったと振り返っている。

 しかし、連れられて行った部屋ではパーティなど行われておらず、ワインスタインひとりがいるだけだった。連れてきてくれたプロデューサーに、「パーティなんじゃないの?」と聞くと、彼は、「ちょっと早く来すぎたね」と言って、部屋を出て行ったという。ワインスタインはアルジェントにマッサージをしてほしいと頼み、彼女が渋々応じると、次にスカートを引きずり下ろし、無理やりオーラルセックスを始めた。彼女は何度もやめてと言ったが、彼は聞かない。圧倒的に体の大きい男性に対して、抵抗してもかなわなかった。

 その事件の後も、ワインスタインは何度か彼女に性的行為を求め、彼女は応じたと告白。「Bモンキー」の北米公開が控えている中、彼を怒らせることが怖かったためだ。ワインスタイン本人も、女性たちに対して、自分を怒らせたら怖いぞとほのめかしていたというし、本当にキャリアを潰されてしまった女性もいる。ミラ・ソルヴィーノは、彼に迫られたことをミラマックスの女性社員に相談したところ、その社員はソルヴィーノがそのことを口にしたことに驚きの表情を見せたと「New yorker」に明かした。「ほかにも要因はあるのかもしれないけれど」と前置きした上で、ソルヴィーノは、そうやって言いつけたことが自分のキャリアが落ちるのにつながったと思うと語っている。

 ロザンナ・アークエットも、ホテルの部屋でワインスタインに迫られ、拒否したところ、「君は大きな間違いをおかそうとしている」と警告されたという。それでも彼女が部屋を出て行くと、その役は別の女優に渡ってしまった。

 一番勇気ある行動に出た女性は、その分、一番ひどい仕返しに遭っている。

 2015年、イタリア人モデルのアンブラ・バティラナ・グテレスは、仕事の可能性について話し合うため、ワインスタインのオフィスに呼び出された。そこで彼は彼女に「その胸は本物か」と聞き、次に胸をつかんで、スカートに手を入れてきた。

 オフィスを出ると、彼女は、その足で警察に向かった。警察に言われて、彼女は、次の夜、ワインスタインと会う約束をする。ワインスタインは知らなかったが、この時の彼女の会話は警察にも聞こえるようになっており、近くには覆面の警察官も配置されていた。(『New Yorker』は、警察の手元に残っているその証拠音声も公開している)。

 だが、警察の捜査が進むのと同時に、グテレスの過去についてのあまり良くない事実が、ゴシップ紙に浮上するようになる。その中には、彼女が過去にイタリアのビジネスマンに性的暴行を受けたと訴えておきながら、 捜査への協力をやめたという記事もあった。奇妙なタイミングで出たそれらの記事によって、彼女自身も、彼女の訴えの信ぴょう性も、ダメージを受けたのだ。

ワインスタインは起訴されるのか

 もし、グテレスの事件で起訴されていれば、ワインスタインは、軽犯罪で、最大懲役3ヶ月を言い渡されていたかもしれない。だが、証拠はたっぷり揃っていたにも関わらず、当時、検察は、起訴しないと決断している。

 この記事が出たことで強い批判を受けたマンハッタン検察は、現地時間9日午後になって、ワインスタインの被害者たちはホットラインに電話をしてくださいと呼びかけた。ニューヨークでは軽犯罪の時効が2年であるため、すでに古すぎるケースも多いだろうが、レイプには時効がない。それでも、過去に複数の女性をレイプしたビル・コスビーの件が、今年になってようやく裁判になったものの、裁判の対象となった女性はたったふたりに限られ、しかもまだ解決しないでいることを考えると、この事件を起訴に持ち込むのは、容易ではなさそうである。

 だが、ワインスタインは今日、すでにひとつの判決を受けた。彼の妻でマルケッサのデザイナー、ジョージナ・チャップマンに、離婚を言い渡されたのだ。数日前、ワインスタインは、「妻は100%、私を支えてくれている」と語っていた。チャップマンは、「これらの許せない行動のために大きな苦痛を味わった女性たちのことを思うと、胸が張り裂けそうです」と声明を発表している。

 1週間前には、金、名声、妻、すべてを手にしていた男。だが彼は、2日前に職を無くし、今日、妻も失った。そしてもはや、名声もずたずただ。この男には、この先、どんな運命が待ち受けているのだろうか。長いキャリアで手がけたどんな作品よりも暗いストーリーを、今、ワインスタインは、不本意にも、語ろうとしている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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