提言20世紀に入って、医療用としての薬物利用を適切に確保するとともに、薬物乱用が個人にとっても社会にとっても深刻な害悪をもたらすとされた。しかしこの考え方はすぐに、懲罰的な薬物乱用政策に重点を移していった。そしてこれは、現在まで続く懲罰的断薬主義に根拠を与え、禁欲に重きを置く薬物治療を義務づけることにつながったのである。 今回の改正においても、薬物の乱用を刑罰で抑止し、刑罰を治療のきっかけに使うという考え方が強調された。しかし米国国立薬物乱用研究所のデータによると、大麻常用者のうちで依存症になっているのは約1割にすぎない。懲罰的な薬物政策のアプローチそのものの前提として、大麻常用者のうちで真に治療が必要な者はどれくらいいるのだろうか。 人権を重視し、人間の自主性を守りながら、薬物使用の害を減らし、違法取引によって生み出される暴力と搾取の抑制につながるような薬物政策が求められているのである。
コメンテータープロフィール
1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。
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