見解麻薬特例法とは、本来薬物犯罪に関する国際協力のために、国内でコントロールド・デリバリー(泳がせ捜査)を適法とするための法律である。たとえば税関でコカインなどの違法薬物が見つかった場合、それを砂糖や小麦粉などと入れ替えてそのまま配達先に届けて、それを「違法薬物だと思って」受け取った者を逮捕するための法律である。ところがこれが、薬物密輸入など国際的な犯罪とは関係のない事件にまで拡大適用されている。たとえば証拠物である薬物がすでに消費されたりして存在せず、尿鑑定もできない事件(物なし事件)などで、関係者とみなされた者の供述や情況証拠などで立件されているのである(最近だと日大アメフト事件)。このように薬物密輸入との関連を外してしまうと、個々の行為によって授受されたものが違法薬物であったことの証明がおよそ不要となってしまい、糸の切れたタコのように、法の適用をコントロールすることが難しくなるのである。
コメンテータープロフィール
1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。