このような愚かな議論は、むかしから繰り返されている。たとえば、明治20年代~30年代にかけて「小説」が社会の堕落の原因であるとして攻撃されたことがある。当時は、「探偵小説」は少年たちに非行や犯罪の方法を教え、「恋愛小説」は性の乱れを引き起こすといったようなことが言われた。そもそも人は何から影響を受けるか分からないし、また行為を行った後で、なぜそのような行為を行ったのかの理由は、後付けでどんな理由でも考えることができる。いわゆる模倣犯がいるのは事実だが、それを防止するために事件報道や出版を控えたり、自粛を(警察が)求めることの方が、国の存立にとってはるかに危ういことである。自由な情報の流れの上にさまざまな制度を構築することが民主主義にとって裁量の方法であって、やむを得ない場合以外は公権力がその流れに介入すべきではないということを、私たちの社会は選択しているのである。
コメンテータープロフィール
1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。
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