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園田寿

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甲南大学名誉教授、弁護士

報告

補足ドゥテルテ前大統領を支えたのは神経科学データの過剰な解釈であり、かれは覚醒剤の使用で脳が萎縮して更生が不可能となった「ゾンビ」を糾弾し、薬物の売人や使用者を超法規的に殺害する醜悪なキャンペーンを展開した。しかし、この「麻薬戦争」は、少なくとも1970年代のマルコス独裁政権時代にまで遡ることができる。マルコス政権は、戒厳令を正当化するために薬物問題を利用した。薬物依存症を国家の安全保障に対する脅威と位置づけ、犯罪や共産主義に対する懸念と巧みに融合させ、特異な「国家の敵」を作り上げ、薬物関連犯罪に対して死刑を含む厳罰化を実現した(1972年の薬物危険法制定)。薬物をめぐるレトリックが市民の間にモラルパニックを起こし、人権侵害を正当化し、カトリック教会や市民団体などが、薬物使用を根絶が必要な社会悪とする政府の描写に共鳴した。このような歴史がドゥテルテの薬物政策と体制の基礎につながったのである。

コメンテータープロフィール

園田寿

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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