見解かつて社員寮が一般的だった背景には、年功賃金と全国配転という日本型雇用があった。そもそも、日本では初任給は自活することが難しいほどに低かった。賃金は勤続とともに上昇する事実上の「後払い」の性格を持っていたため、若手は不当なほどの低賃金だったのである。そのため、基本的に親元から通勤することが前提され、それができない地方出身者は社員寮に入ることで何とか生活することができた。また、社員寮は全国配置転換を求められる日本独特の雇用制度とも整合して広がってきた。 今日、この構図は「ジョブ型」雇用が広がる中で崩れつつある。初任給も専門職採用者を中心に上昇傾向にあり、全国配転も勤務地限定契約が広がる中で後退している。それにもかかわらず、逆に社員寮が注目を浴びるというのは、労働研究者にとっても興味深い現象である。インフレで貨幣価値が不安定化する中で、給与以上に「現物給付」のニーズがましているのかもしれない。
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コメンテータープロフィール
NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。
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