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最低賃金「1500円」はなぜ注目を集めているのか? #専門家のまとめ

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:イメージマート)

 衆議院選挙の争点に最低賃金1500円への引き上げが急激に争点となっている。自民党の政策集には記載されていないものの、石破首相は自民党総裁選時に「2020年代に全国平均1500円」に引き上げるという目標を掲げているほか、各党も類する政策を提示しているからだ。

 経済界では「倒産してしまう」という批判が噴出している一方で、一部では日本経済全体の観点からは最低賃金を上げて企業の競争力をあげるべきとの見解もある。さらに、政策論的には全国平均1500円なのか、全国一律1500円以上なのかをめぐっても議論がある。

ココがポイント

最低賃金の1,500円への引き上げは、(自民党に加え)他党も掲げる一種のスタンダードとなっている。
出典:NRI(Nomura Research Institution) JOURNAL 2024/10/15(火)

急激に引き上げた結果、地方での廃業を懸念する声も出ている…町や村が丸ごと消えることにつながりかねない
出典:毎日新聞 2024/10/15(土)

最賃1500円を払えない企業は駄目です。払えることを目標とすべき。1500円にしないと…駄目な企業を補助することになる(新浪剛史氏)
出典:テレビ朝日 2024/10/18(金)

(最賃の)金額も、全国一律にするべきです…地域間格差を解消することで、地方からの人口流出を防ぐことにもつながります。
出典:東京新聞 2024/10/2(水)

エキスパートの補足・見解

 近年、最低賃金をめぐっては単純に「生活困難だから賃金を上げなければならない」というだけではなく、より広い経済的・社会的関心がもたれている。論点の一つが、最賃の引き上げは「経済に寄与するのか否か」である。今回のまとめでも、中小企業の倒産を懸念する声と、むしろ「駄目な企業」を保護すべきではないという相反する見解が見られた。確かに、最賃が上がれば企業は設備投資を増やすなど生産性を上げるしかない。こうした議論は著名な経済評論家であるデービッド・アトキンソン氏が提唱することで、近年支持者を増やしている。

 また、最低賃金を全国一律にすべきかについても議論が活発化している。四つ目に挙げた東京新聞の記事で紹介されている静岡県立大学の中澤教授の研究によれば、実は都市と地方で必要な生計費に大きな差はないことが実証されている。だとすれば、都市に比べて最賃が低く抑えられている地方では、非常に生活が困難であることになり、東京への人口移動も促進していることになる。

 以上のように、今日では最低賃金について、日本経済全体への影響や地域格差の問題としても考えられるようになっている。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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