補足もともと政府が副業を推進してきた主な論理は、本業の能力を他の企業でも生かすことにあった。特に公務員や大企業では優秀な人間が高い専門性を持つものの、その専門性を組織内だけでは生かしきれないという問題設定があったのだ。確かに、中小企業などで不足する専門的な技能を大企業や官庁の人間が短時間勤務で補完するという考えには一定の合理性がある。 一方で、副業は転職機会の増大をもたらす。したがって、高度な能力を持つ社員を企業が外に出したがらないのも当然のことだ。それが同業企業であればそれはなおさらである。なお、もともと同業他社への転職には法律上「競業避止義務」という制約も存在する。 そのため、今回の事例では、政府の主な想定とはずれた、経験の拡充のための「副業」が実現しようとしている。もちろん、この点を政府もまったく無視していたわけではない。副業の語られ方や実現の仕方はかなり複雑化している。
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コメンテータープロフィール
NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。