今回のストの背景の一つに「違法点検」があるようだ。3カ月ごとに実施されるバス車両の定期点検を、会社が道路運送車両法で義務付けられた認証を受けていない工場で不正に行っているという労働組合の主張があるという。こうした要求は、労働組合が自分たちの賃上げばかりを求めて、消費者や世論を置いて行きがちであるという従来の労働組合の固定観念を覆すインパクトがある。社会を下支えするエッセンシャルワーカーの労働組合においては、賃金などの労働条件だけでなく、利用者の安全などの労働の「質」の問題は切実な課題である。たとえば昨年には補助金の不正や閉園、不適切保育を機に、横浜市の保育園に勤める5人の保育士が介護・保育ユニオンで終日ストを実施した。近年アメリカでも教員の大規模なストが子どもたちの教育環境を一つの争点として行われた。このような「社会的」ストライキ はもっと日本でも広まることが期待される。
コメンテータープロフィール
NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。