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西高東低の気圧配置でも日本海に小さな低気圧がある時は里雪型の大雪 近年は短時間に降る雪の量が問題に

饒村曜気象予報士
里雪型の天気図と衛星画像(令和7年(2025年)1月9日15時)

日本海側の大雪

 日本海側での大雪には、山で大雪となる「山雪型」と、平野部でも雪が多い「里雪型」の2つがあります。

 そのときの気圧配置は、両方とも冬の代表的な気圧配置である「西高東低の気圧配置」で、日本付近における等圧線は、ほぼ南北方向に走っています。

 しかし、天気図を細かく見比べると差があります。

 山雪型の場合は、日本列島に強い寒気が南下し、等圧線の間隔が狭いところほど北西からの強い季節風が吹き、日本列島を縦断している脊梁山脈にあたって上昇し、山では大雪となります(図 1)。

図1 山雪型の仕組みと地上天気図(上段)と里雪型の仕組みと地上天気図(下段)
図1 山雪型の仕組みと地上天気図(上段)と里雪型の仕組みと地上天気図(下段)

 これに対し、里雪型の場合は強い寒気が日本海に南下するため、大きく見ると西高東低の気圧配置ですが、日本海には強い寒気が入ったことを示す低気圧性の湾曲(気圧の谷)、あるいは小さな低気圧があります。

 このため、里雪型の場合の風は西寄りとなり、上空寒気で蓋をされる形となることから、脊梁山脈の手前、つまり平野部でも多くの雪が降ります。

 人口が多い平野部で雪が多く降る里雪型は、社会的な影響が大きくなります。

 そして、日本海に南下していた強い寒気が日本列島から日本の東海上に進むと、風は北西に変わり、山雪型の大雪に変わります。

 1月9日(木)15時の地上天気図をみると、西高東低の気圧配置といっても、日本海に小さな低気圧がありますので、この段階では、里雪型の大雪であることを示しています(タイトル画像)。

続く西高東低の冬型の気圧配置

 予想天気図をみると、1月10日(金)は西高東低の冬型の気圧配置ですが、9日(木)と違って、日本海には小さな低気圧はありません(図2)。

図2 予想天気図(左は1月10日9時、右は1月11日9時の予想)
図2 予想天気図(左は1月10日9時、右は1月11日9時の予想)

 等圧線の間隔が狭いことから、強い北西風が吹いて山雪型の大雪が降ることを示している予想天気図です。

 1月11日(土)も西高東低の冬型の気圧配置が続く見込みですが、等圧線の間隔が広くなってきますので、強い寒気の南下が一服しそうです。

 とはいえ、西高東低の冬型の気圧配置が続き、48時間予想降雪量は、北陸から山形県の山沿いでは100センチを超え、山陰地方の山沿いでも50センチを超える見込みです(図3)。

図3 48時間予想降雪量(1月10日0時から11日24時の48時間予想)
図3 48時間予想降雪量(1月10日0時から11日24時の48時間予想)

 大雪による交通障害に警戒し、着雪やなだれに注意が必要です。ただ、この大雪による交通障害は、近年、様相が変わってきました。

短時間に降る「顕著な大雪」

 短時間に顕著な降雪があると多雪地帯でも、普段は雪が少ない地方でも大規模な車両渋滞・滞留を引き起こし、社会活動へ大きな影響を及ぼしますが、この影響の度合いは、近年顕著になってきました。

 災害は人間生活との関係で変化しますので、雪が降るという現象は昔と同じでも、生活スタイルが変わってくると、災害の形態も変わってきます。

 冬でも多くの物資が移動することを前提とした生活するようになると、雪が降ってもトラック輸送は決められた時間で移動する定時性が求められます。

 このことによって、冬場の道路輸送の重要性が高まり、「即時的な除雪作業が間に合わないほどの短時間に降る強い雪」がどんどん大問題になってきました。

 そこで、気象庁では、平成30年(2018年)12月より「顕著な大雪に関する気象情報」を発表し、短時間の大雪に対して一層の警戒を呼び掛ける情報提供をすることとしました。

 具体的には、過去6時間に顕著な降雪が観測され、その後も大雪警報の発表基準を一定量上回ると思われる時に発表されます。

 記録的短時間大雨情報の雪版ともいえるでしょう。

 「顕著な大雪に関する気象情報」発表のきっかけとなったのは、平成30年(2018年)2月に発生した福井県を中心とする北陸の大雪です。福井県は、嶺北を中心に雪が降り続き、6日には平地でも1メートルを超える積雪となり、福井市では昭和56年(1981年)の五六豪雪以来37年ぶりに積雪130センチを超えました。

 北陸自動車道は通行止めが続き、坂井市からあわら市にかけての国道8号線では約1500台の車が立ち往生し、福井県は自衛隊に災害派遣を要請しました。

 「顕著な大雪に関する気象情報」の最初の発表は、令和3年(2021年)1月7日に富山県に対してです。

 令和3年(2021年)1月7~8日の日本付近は、大きく見ると西高東低の冬型の気圧配置となり、この年一番の寒気が南下してきました(図4)。

図4 令和3年(2021年)1月8日15時の地上天気図
図4 令和3年(2021年)1月8日15時の地上天気図

 このため、東北の日本海側から北陸地方、西日本の日本海側のみならず、普段は雪の少ない九州でも雪が降りました。

 「顕著は大雪に関する気象情報」は、富山県に続き、福井県、石川県、新潟県でも発表となり、北陸地方では、大規模な交通渋滞が発生し、福井県内の北陸自動車道は一時2000台の車が立ち往生しています。

 このため、福井県、富山県、新潟県は、相次いで自衛隊に災害派遣を要請しました。

太平洋側の大雪

 日本における大雪は、強い寒気が南下したときに日本海側「山雪型」「里雪型」、それに、強い寒気の南下が弱まって南岸低気圧が通過するときに太平洋側で雪が降る「南岸低気圧型」の3種類があります。

 三連休の真ん中、1月12日(日)は、強い寒気の南下が弱まりますが、西日本の南海上で発生した低気圧が南岸低気圧として東進する見込みです。

 予報が難しい南岸低気圧による雪ですが、今のところ、東京都心はみぞれ、東京都多摩地区は雪という予報ですが、雪の量は低気圧の発達の程度や位置によって大きく変わります(図5)。

図5 雨雪判別の予想(1月12日21時の予想)
図5 雨雪判別の予想(1月12日21時の予想)

 大雪になるかもしれません。

 最新の気象情報に注意してください。

タイトル画像、図3、図5の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:饒村曜(平成26年(2014年))、天気と気象100、オーム社。

図2、図4の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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