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肝斑の予防と対策 - 紫外線対策と生活習慣の見直しで美肌を取り戻す

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【肝斑の原因と症状】

肝斑は、顔面に左右対称な褐色の色素斑が現れる後天性色素異常症です。主に中年以降の女性に多く見られ、ホルモンバランスの乱れや肝機能の低下、ストレスなどが原因と考えられています。

肝斑の発症メカニズムは、メラノサイト(色素細胞)の活性化が関与しています。紫外線によってメラノサイトが刺激されると、メラニン色素の生成が亢進します。その結果、皮膚の一部に色素沈着が生じ、シミやくすみが形成されるのです。

また、加齢に伴う肝機能の低下も、肝斑の発症に関与していると考えられています。肝臓は、老廃物の解毒や代謝に重要な役割を果たしています。加齢とともに肝機能が低下すると、体内に老廃物が蓄積し、肌のターンオーバーが乱れることで、色素沈着が起こりやすくなるのです。

肝斑の症状は、色調や分布パターンによって分類されます。代表的なものに、頬や鼻、額に現れる「中心性」、頬骨上に現れる「頬骨型」、下顎部に現れる「下顎型」などがあります。重症度によっては、色素斑が顔面全体に広がり、肌のくすみや乾燥、たるみを伴うこともあります。

【肝斑の治療法と注意点】

肝斑の治療には、外用薬と内服薬が用いられます。代表的な外用薬としては、ハイドロキノンやトラネキサム酸、ビタミンC誘導体などがあります。これらの薬剤は、メラニンの生成を抑制したり、過剰なメラニンを排出したりする作用があります。

ハイドロキノンは、メラニンの生成を強力に抑制する薬剤ですが、高濃度で使用すると刺激反応や色素沈着を引き起こす恐れがあります。そのため、医師の指導のもとで慎重に使用する必要があります。トラネキサム酸は、メラニンの生成を抑制するだけでなく、炎症を抑える作用もあります。外用薬としても内服薬としても使用されますが、内服の場合は血栓症のリスクがあるため、適応を見極めることが大切です。

肝斑の治療では、外用薬や内服薬と並行して、日光対策や生活習慣の改善を行うことが重要です。紫外線は肝斑の悪化因子となるため、日中の外出時には帽子や日傘、サンスクリーンを使用し、できるだけ日光に当たらないようにしましょう。

最近では、肝斑治療に漢方薬を取り入れるケースも増えています。漢方薬には、肝機能を高める作用や、ホルモンバランスを整える作用があるとされています。ただし、漢方薬は体質に合わせて処方する必要があるため、専門医に相談することが大切です。

【新たな治療法の可能性】

肝斑の新たな治療法として、ナノ粒子を応用したドラッグデリバリーシステム(DDS)が注目されています。DDSとは、薬物を体内の特定の場所に効率よく送達する技術です。

ナノ粒子に薬物を封入することで、皮膚への浸透性が向上し、メラニンの生成を抑える薬剤を、より効果的に届けることができます。さらに、ナノ粒子は紫外線から薬物を保護する効果もあるため、安定性の向上も期待できるのです。

現在、トラネキサム酸やハイドロキノン、ビタミンC誘導体などをナノ粒子化したDDSが研究されており、動物実験では良好な結果が得られています。今後、臨床試験を経て実用化が進めば、肝斑治療の選択肢が広がるかもしれません。

また、肝斑の発症メカニズムの解明も進んでいます。最近の研究では、肝斑の発症に関与する遺伝子が特定されました。この遺伝子は、メラノサイトの活性化を促進する働きがあることがわかっています。今後、この遺伝子を標的とした新たな治療法の開発が期待されます。

さらに、肝斑の診断技術も進歩しています。従来は、肉眼での観察が主な診断法でしたが、最近では、非侵襲的な画像診断技術が開発されています。例えば、顔面の色素沈着を3次元的に解析する装置や、メラニン量を定量的に測定する装置などです。これらの技術を活用することで、肝斑の重症度や治療効果を客観的に評価できるようになりました。

【まとめ】

以上、肝斑について詳しく解説しました。肝斑は、色素異常症の一種で、メラニンの過剰生成が原因です。治療には外用薬と内服薬、日光対策、生活習慣の改善を組み合わせる必要がありますが、使用する薬剤には注意が必要です。

新たな治療法として、ナノ粒子を用いたDDSの開発が進んでおり、より効果的で安全な肝斑治療の実現が期待されます。また、肝斑の発症メカニズムの解明や診断技術の進歩により、個々の患者に適した治療法の選択が可能になるかもしれません。

肌の色素異常でお悩みの方は、早めに専門医に相談し、適切な治療を受けることをおすすめします。自分に合った治療法を見つけ、健康で美しい肌を取り戻しましょう。

参考文献:

1. Front Pharmacol. 2024 Apr 2:15:1337282. doi: 10.3389/fphar.2024.1337282.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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