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噛みつき男の未来は…

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Bite of Century(世紀の噛みつき)。あまりに生々しいのでイラストで

ウルグアイ代表のストライカー、ルイス・スアレスがイタリア代表のジョルジョ・キエッリーニに噛み付いたことを受け、FIFAは9試合の代表戦出場停止と、4ヶ月間のサッカー活動停止を言い渡した。サッカー界では「罰が重すぎる」との声が上がっている。

この報道を受けて私が思い出すのは、17年前の今日のことだ。1997年6月28日、WBAヘビー級タイトルマッチ、イベンダー・ホリフィールド×マイク・タイソン。会場は米国、ネヴァダ州ラスベガス、MGMグランドガーデンアリーナ。6000ものメディアがプレスパスを発行されず、100名弱がプレスセンターのスクリーンで試合を見なければならなかった。1万8187のチケットは即、完売。メガファイトに相応しい盛り上がりを見せた。試合前、記者席に座り、妙に緊張したことを覚えている。

が、オーピニングベルから劣勢を強いられた挑戦者タイソンは、ホリフィールドの右耳を食いちぎって失格負けとなる。ボクシング史上指折りのビッグマッチで狂犬となってしまった彼は、以降、坂道を転げ落ちていく。一時は向かう所敵なしで、時代を築いた彼だが、タイトルを取り返すことは勿論、ファンを魅了するファイトも演じられなかった。

タイソンには1年の謹慎が下り、翌99年の9月19日に復帰に向けた公聴会が開かれた。公聴会からおよそ4ヶ月後に彼はカムバックしたが、「IRON(鉄の男)」と呼ばれた姿は消え失せ、”鉄屑”となっていった。反省しているようにも見えなかった。

スアレスが才能に恵まれたストライカーであることは認めるが、タイソンのような道を辿るような気がしてならない。

タイソンは引退後の09年10月16日に、TV番組内でホリフィールドに謝罪し、両者は握手をかわした。とはいえ、あくまでTV演出があってのことだ。ロバート・デニーロとシルベスタ・スタローンの共演が話題となった映画『Grudge Match』でも、タイソンはホリフィールドとともに出演し、コミカルなキャラを演じたが朽ち果てた男の切なさだけを伝えた。

サッカー界の噛みつき男は、どうなっていくのだろう……。

※僕のイタリア取材日記をご覧になりたい方は、 

http://otonano-shumatsu.com/column_list/36295.html

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ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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