無事に帰国を果たした、孫太郎の軌跡
江戸時代は厳しい鎖国体制が敷かれていたこともあり、自由に海外に行くことはできませんでした。
しかし中には遭難したことによって思わぬ形で海外に行ってしまう人もおり、今回紹介する孫太郎はその一人です。
この記事では孫太郎の帰国の軌跡について紹介していきます。
8年ぶりに故郷に帰った孫太郎
孫太郎はついにバンジャルマシンを離れる日を迎えました。
4月12日、船は穏やかな波に揺られながら港を後にしたのです。
これが長い旅の始まりであったものの、船の上で孫太郎は淡々とした表情を保っていました。
だが、内心では故郷への期待が膨らみ、時折風に乗って届く異国の匂いに鼻をつまんでは、そっと遠くの山々を思い出していたのです。
バタヴィアには5月2日に到着します。
孫太郎は街を見物しながらも、心はすでに次の旅路に向かっていました。
5月5日、日本に向けて出航した船は、オランダ人やマレー人が入り混じった不思議な船員たちの群れで賑わっていたのです。
中には日本語が分かる者もおり、孫太郎はその船員たちとの会話から異国の生活の一端を垣間見ます。
船は順調に南シナ海を北上し、琉球の海を越えていったのです。
6月16日、ついに長崎の港が見えました。その瞬間、孫太郎の胸は喜びと緊張が入り混じり、不安定に鼓動を打ったのです。
だが、すぐに幕府の厳しい取り調べが待っていました。
取り調べを経て、孫太郎は福岡藩に引き渡されたのです。
8年ぶりの帰郷の時、彼は古い仏壇の前に座り、そこには自分の位牌が並んでいました。
「唐孫さん」として故郷で静かに暮らし始めた彼は、再び大海を越えることもなく、その地で生涯を閉じたといいます。
参考文献
岩尾龍太郎(2006)「江戸時代のロビンソン―七つの漂流譚」弦書房