【コーヒーの歴史】コーヒーの豆に宿る三つの伝説!―はるか彼方の物語が、今日も一杯の香りに漂う―
それは、まるでコーヒー豆そのものが物語を宿しているかのような話です。
はるか昔、エチオピアの山中で若きヤギ飼いカルディが奇妙な光景を目にしました。
ヤギたちが赤い実を食べては踊り狂うのです。
驚いたカルディは修道僧に相談し、彼らがその実を試すと眠気が吹き飛んだといいます。
「眠りを知らぬ修道院」の逸話として語られたこの話は、のちにヨーロッパで美しく装飾され、カルディという名前も付与されました。
実際のところ、この話がいつどこで始まったのかは、豆のように謎めいています。
また、13世紀のモカでは、追放された修道者シェイク・オマールが山中で赤い実を見つけ、その効能を広めたという説もあります。
鳥に導かれ、コーヒーを発見した彼は、のちに許されて人々の英雄となりました。
この話も、モカのコーヒー産業が興隆した後に創作されたのではないかと言われているものの、彼の冒険譚にはどこか香ばしい魅力があります。
一方で、15世紀のアデンではイスラム律法学者ゲマレディンが病の折、エチオピアで得た知識を頼りにコーヒーを試したという逸話があるのです。
これが商人や修道者に広まり、コーヒー文化の種を撒いたとも伝えられるが、学者の間では議論が絶えません。
こうした数々の伝説を紐解くと、コーヒーという飲み物は、その起源の曖昧さをもって一層の深みを持つのでしょう。
飲むたびに思い出すべきは、遥か遠い地で語られたヤギたちの踊りや、鳥に導かれた山の神秘です。
コーヒーの香りには、いつだって物語が詰まっています。
参考文献
マーク・ペンダーグラスト著、樋口幸子訳(2002)『コーヒーの歴史』河出書房新社