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中国共産党創立100周年で大注目 日本の早稲田大学に留学した2人の重要人物とは……

中島恵ジャーナリスト
ドラマ『覚醒年代』 左から陳独秀、李大釗、毛沢東、周恩来(中国のサイトより)

 7月1日、中国共産党は創立100周年という節目を迎える。それに合わせ、中国各地で祝賀イベントが開催されると同時に、メディアでは連日、党の足跡を称える番組を放送しているが、そこには党の創設時のメンバーもしばしば登場する。そのうちの2人は陳独秀と李大釗(ショウ)という人物だ。彼らは日本の早稲田大学への留学経験者であり、日本とのゆかりも非常に深い。

大人気ドラマ『覚醒年代』にも登場

 今年、中国で大ヒットしたテレビドラマがある。それは2月から中国中央テレビ(CCTV)で放送されていた全43話の歴史ドラマ『覚醒年代』だ。中国共産党100周年を前に制作された大作で、党がどのようにして出来上がり、今日に到ることになったのか、その過程を詳しく知ることができる内容となっている。

 このドラマの中心的な登場人物は毛沢東、陳独秀、李大釗の3人だ。のちに「建国の父」となる毛沢東を除き、陳独秀と李大釗については、日本ではほとんどその名前は知られていないだろう。もちろん、彼らが日本留学経験者であり、日本通であることも、だ。

 中国でもその点について詳しく知る人は、以前は多くなかったのだが、大ヒットした同ドラマや、ここ数年流行している「紅色旅游」(レッドツーリズム、中国共産党の聖地を巡る旅)などにより、彼らについて報道される機会が増加。奇しくも、中国共産党の創立に日本の影響があったことが、今、クローズアップされている。

日本でマルクス主義を学んだ

 中国共産党は今から100年前の1921年7月に設立された。上海で行われた第1回全国代表大会には毛沢東など13人が出席。陳独秀や李大釗は出席しなかったが、2人とも党の歴史を語る上で欠かせない重要人物であることに変わりはない。

 陳独秀は1879年、安徽省で生まれた。幼い頃から成績優秀で、1901年、早稲田大学の前身である東京専門学校に留学した。日中を何度か往復したのち、上海で雑誌を創刊。北京大学で文科学長などをつとめ、中国共産党の初代委員長に就任した。

 李大釗は1888年、河北省で生まれた。1913年、早稲田大学に留学。李は日本の社会主義者だった安倍磯雄や、京都帝国大学(当時)でマルクス経済学の研究を行っていた河上肇らを信奉。彼らの影響を強く受け、彼らの著作を「日本語」で読み漁ったといわれる。

 李は中国に帰国後、マルクス主義を紹介する論文を多数執筆するが、その学問の基礎は日本で築いていたのだ。その後、彼は北京大学で教授をつとめたが、同じ時期に毛沢東は同大学の図書館員として働いており、毛沢東は李のことを尊敬し「私の先生」と呼んでいたという。

 ドラマでも毛を含む3人を中心に、中国共産党がどのようにして成り立っていったかという過程が描かれている(ほかに魯迅や胡適、周恩来なども登場する)が、日本留学時代の話はわずかしか出てこない。しかし、党の創立に際して、彼ら2人が日本で学んだことが大きく影響していることは確かだ。

「人民」も「共和国」も日本人が考案した言葉

 余談だが、陳独秀や李大釗(ショウ)を始め、留学生は日本でさまざまなことを学び、それを中国に持ち帰ったが、その一つが、日本人が考案した語彙だった。明治時代、日本にも中国にも西洋の概念を表す言葉は存在せず、西洋の言葉を翻訳する必要があったが、日本では、それらは中江兆民や福沢諭吉らによって考案された。

「共産主義」「社会主義」「革命」「文化」「法律」「科学」「金融」「憲法」……などがそれだ。これらは彼らによって中国に逆輸入されたが、当時、中国では日本からの逆輸入について賛否両論があったといわれている。毛沢東や魯迅、梁啓超(啓蒙思想家)らは賛成派で、その後、中国で、これらは一般に使われる言葉となった。

「中華人民共和国」という国名のうち、「中華」を除いて、「人民」も「共和国」も日本人が考案した語彙だ。

創設メンバーの3分の1が日本留学組

 ところで、この2人以外にも、1900年代前半は、中国から日本に大勢の留学生がやってきていた。彼らと同じく党の創設メンバーだった董必武は日本大学、東京生まれで、建国後、日中国交正常化交渉などで活躍した廖承志は早稲田大学、中国共産党の第1回全国代表大会の開催場所を提供した李漢俊は東京帝国大学(現在の東京大学)に留学しており、57人(58人という説もある)の創設メンバーのうち、実に3分の1が日本留学経験者だ。

 当時、日本は明治維新を経て、東アジアで最も近代化している国であり、若い中国人留学生にとって、日本で学ぶものは非常に多かったのだ。

早稲田に中国人が多い理由

 留学先としてとくに人数が多かったのが、前述したように、陳や李が学んだ早稲田大学。早稲田大学のホームページによると、同大学は1899年に清国留学生部を設置。中国からの留学生を積極的に受け入れる方針を取った。

 現在、日本には約27万9600人の外国人留学生がいる(日本学生支援機構、2020年度の調査)が、国別では中国が最大で約12万2000人に上る(2位はベトナム、3位はネパールの順)。

 中国人が最も多い日本の大学は国立・私立合わせて、現在も早稲田大学だ。早稲田のホームページによると、2020年11月1日現在、外国人学生出身国・地域別で中国はトップで、3391人(同大の外国人学生全体の約63%)となっている。

 早稲田大学には1998年に江沢民、2008年に胡錦濤という2人の国家首席(当時)も来日時に訪問しており、このことは中国でも大々的に報道された。今も早稲田が中国人の間で人気があるのは、そうした経緯がある。

 陳独秀や李大釗が日本に留学してから100年以上もの歳月が過ぎた。中国共産党創立100周年の祝賀イベントと日本は、一見すると無関係のように見えるが、その創設には日本も深く関わっていたのだ。

参考記事: 増え続ける中国共産党員 中国で中国人が中国共産党員になる方法

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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