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20代の女性客が9割!スープや具材を自在に選べる中国発のマーラータンが大人気の理由

中島恵ジャーナリスト
具材たっぷりのマーラータン(筆者撮影、以下同)

平日の午前11時5分。東京・池袋駅から徒歩5分ほどの距離にある「楊國福麻辣烫」(ヤングオフーマーラータン)に到着すると、11時に開店したばかりの店内には、すでに15人以上が列を作っていた。しかも、ほとんどが10代後半~20代前半の若い女性で、2~3人の友だち同士や1人客だ。

1~2年ほど前から、インスタグラムやTikTokなどのSNSで写真や動画がシェアされ、「マーラータンが若者の間で人気」と噂には聞いていたが、まさか、これほどとは思わなかった。中国発のB級グルメのチェーン店になぜ、日本の若い女性たちは惹きつけられるのか。

マーラータンは1人用の料理

ここ数年、日本ではガチ中華と呼ばれる本場中国の味に近く、日本風にアレンジされていない料理が流行っているが、そのひとつが麻辣烫(マーラータン)だ。麻辣湯と書くこともある。「湯」(タン)が中国語でスープを意味するのに対し、「烫」(タン)はやけどするほど熱いスープの意味だ。

「麻」(マー)は花椒(ホワジャオ)のしびれる辛さで、「辣」(ラー)は唐辛子のピリピリした辛さ。それらに複数の香辛料や調味料をブレンドし、好みの野菜や肉、魚、練り物、麺を入れてグツグツ煮込んだのがマーラータンだ。火鍋にも似ているが、火鍋は基本的に数人で食べる鍋料理であるのに対し、マーラータンは1人用のラーメンどんぶりで食べる単品だ。

日本には、今回私が行った中国系の「楊國福麻辣烫」や「張亮麻辣烫」のほか、日本人が始めた「七宝麻辣湯」(←こちらは「湯」)、ほかに単独の店などさまざまなタイプのマーラータン店がある。

中国のウェブサイトで調べてみると、四川省の料理で、川下りの船頭や船で働く人たちが串に刺した具材を辛いスープで煮て食べていたとある。船の上で空腹を満たせるだけでなく、身体を温めることができ、船を漕ぎながら片手でも食べられることから生まれた料理のようだ。

四川省発と黒竜江省発の2系統ある

だが、中国全土や日本など海外でもチェーン展開する「楊國福」や「張亮」は内陸部の四川省で創業した企業ではなく、東北地方の黒竜江省の企業。東北地方の吉林省や遼寧省などでも、以前から似た料理が食べられており、それが黒竜江省にも伝わったようだ。

つまり、マーラータンには四川省の系統と東北部の系統の2種類あるということ。黒竜江省のマーラータンは胡麻ソースなどが加えられていて、四川のマーラータンよりもややマイルドなのが特徴だ。

私が訪れた「楊國福」は2003年に黒竜江省ハルビン市で創業し、07年からフランチャイズ化に成功して中国各地に広まった。現在の本社は上海市で、海外は日本、アメリカ、カナダなどにあり、世界での総店舗数は7000店を超える。まさにマーラータン界の中でトップに君臨する企業といっていいだろう。ちなみに、「楊國福」も「張亮」も創業者のフルネームが、そのまま店名になっている。

具材は70~80種類 スープも5種類から

その「楊國福」池袋店に入ってみると、私の前に並んでいた若い女性たちがすでにボールを手に取り、好きな具材を選んでいるところだった。

具材は白菜やパクチー、もやしなどの野菜や肉類、魚団子などの練り物、中国でよく食べられる鴨血、豆腐、ゆばなどで70~80種類はある。それを好きなだけ取り、レジでグラム数を量ってもらう。100グラムで400円の計算だ。1000円以上、つまり250グラム以上の具材を買うと、好きな麺を80グラムサービスしてもらえるというスタイル。

初めてなので、どのくらいの量をボールに取ったらいいかわからなかったが、とりあえず、15種類くらいの具材を1つか2つずつ取り、計量してもらったら、538グラムだった。値段は2152円。レジで番号が書かれたレシートを渡され、それをテーブルに置いて、料理が来るのを待つようになっている。

スープ麺1杯の値段にしては「ちょっと高い?」と思ったが、座席について隣の席の女性のレシートをのぞき見すると、600グラム越えで3200円だった。別の女性のレシートを見ると1780円。食べてみると、自分が取った量はかなり多めで、もう少し少なくすればよかったかなと感じた。

スープは「牛骨湯」(牛骨スープ)、麻辣湯(マーラースープ)など5種類から、麺は牛筋麺、刀削麺、インスタント麺など5種類から選べる。私は店員さんオススメの麻辣スープを選択。麺は牛筋麺にして、辛さは最も辛くない「小辣」にしたが、個人的にはちょうどいい辛さだと感じた。辛いのが得意な人なら「普通辣」でいいかもしれない。ほかに、黒酢やニンニクなども別の皿に自由に取ることができ、味変できるようになっている。

クセになる味でリピート率が高い

隣に座っていた女性も1人だったので、なぜこの店に来たのかと聞いてみたところ、「TikTokで動画を見て、美味しそうだったから。もう何度も来ている」という。確かに、同じ時間帯に来ていた客のほとんどが、手慣れた様子で、常連客のようだった。

マーラータンブームのようで、石原さとみさんなどの芸能人やインフルエンサーなどが食べて知名度が上がったこと、具材とスープ、麺を自分好みにカスタマイズできて、毎回違う味を楽しめること、野菜、肉、魚をバランスよく取ることができるので、健康にもかなりいいなどのメリットもあると感じた。

ただ、店内が混み過ぎているので、1人だと2人用テーブルで相席にさせられること、食べたらさっさと出ていかなければならず、落ち着かないといった点はあるが、多くの人がSNSに書き込んでいたように、「クセになる味」ではあった。次回は違う具材、違うスープ、違う麺にも挑戦してみたい。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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