「マーダーミステリー」「マダミス」は商標登録されるか?
「”マダミス”商標出願に物議 YouTuberヒカルと飯田祐基の新会社が申請」という記事を読みました。2023年12月に、「マーダーミステリー」、「マダミス」、「マーダーミステリーゲーム」、「マーダーミステリーモバイル」、「飲みマダミス」、「マダミスホテル」等の商標登録出願が、YouTuberヒカルさんらが創業した株式会社これからミステリーによって行われていたという話です。なお、これらの出願は既に公開済(公報発行済み)ですが、本記事公開時点で特許情報プラットフォームにはまだ掲載されていません。
「マーダーミステリー」およびその略称「マダミス」については、「通常、殺人などの事件が起きたシナリオが用意され、参加者は物語の登場人物となって犯人を探し出したり、犯人役の人は逃げ切る事を目的として会話をしながらゲームを進めるパーティーゲーム」(Wikipedia)を指す普通名称として定着していると思われますので、この商標登録出願についてはファンや業界関係者から当惑の声が聞かれます。
「ゆっくり茶番劇」事件も記憶に新しいですが、この手の騒動は定期的に起こります。出願人側は、独占を目的としたものではなく、不正使用を事前に防ぐことが目的という旨の声明を出しています。商標法の仕組みとして、不正目的の登録を防ぐためには誰か信頼できる人が登録せざるを得ないので仕方がない面がありますが、「ゆっくり茶番劇」におけるドワンゴの動きとは違い、新参企業が事前の告知なしに出願するのはどうなのよという感はあります。
さて、上記8つの出願は登録されるのでしょうか?商標法には、指定商品・役務(サービス)の普通名称や品質を表しただけの商標(記述的)は登録できないという規定があります。普通名称の使用を特定企業が独占できてしまったら大変なので、当然の規定ですが、普通名称・記述的名称であるかの判断は指定商品・役務との関係において行われる点に注意が必要です。たとえば、食品関連の指定商品で「アップル」を登録することは(誰であっても)できませんが、コンピューター関連の指定商品で「アップル」を登録することは可能です(もちろん、Apple Inc.による既登録と類似という理由で拒絶されますが、Apple Inc.自身であれば登録できます)。飲料に「アップル」という商標が付いていれば、常識的に考えて、一般消費者は「これは中身にリンゴが入っているのだな」と思うので記述的(ゆえに登録不可能)ですが、コンピューターに「アップル」という商標が付いていても「中身にリンゴが入っている」とは思いませんので記述的ではないということになります。
現実には、普通名称・記述的であるか否かの判断はグレーゾーンがあります。ただ、少なくとも「マーダーミステリー」、「マダミス」、「マーダーミステリーゲーム」については、過去にも何回か出願されており、少なくともソフトウェア関係(9類)、おもちゃ関係(28類)、ゲーム関係(41類)については記述的であるとして拒絶になっています。例として、2019年に出願された「マダミス」の拒絶理由通知から引用します(一部省略)。
なお、上記商標はまだ実体審査が始まっていませんので、グレーゾーンの領域での登録の可能性を少しでも減らすためには、特許庁に対して情報提供(刊行物提出)を行うことで審査官に意見を述べることができます(それに従うかどうかは審査官の裁量ですが)。前述の、過去に拒絶になった「マーダーミステリー」や「マダミス」についても、誰かから情報提供が行われています(誰がどのような資料を提出したかは600円払って資料を閲覧しないと見られませんが、情報提供は匿名でも行えるので誰が行ったかはわからない可能性があります)。