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ジェイコブスがブルックリンダービーを鮮烈に制す  ワイルダー、カネロ、ゴロフキンの今後は?

杉浦大介スポーツライター

Photo By Kotaro Ohashi

12月5日 ブルックリン バークレイズセンター

WBA世界ミドル級タイトルマッチ

王者

ダニエル・ジェイコブス(アメリカ/28歳/31勝(28KO)1敗)

1ラウンド1分25秒TKO

挑戦者

ピーター・クイリン(アメリカ/32歳/32勝(23KO)1敗1分)

地元対決の鮮烈な結末

ブルックリンに本拠地を置き、もともと友人同士の2人の新旧王者が、地元の大アリーナで雌雄を決するーーー。まるで映画のような“ブルックリンダービー”の結末は、予想外の早さで訪れた。

1ラウンド開始早々にジェイコブスが右ストレートでダメージを与えると、クイリンは完全に脚にきてしまう。王者がすかさず連打で畳み掛けると、ダウンこそなかったものの、クイリンは反撃できない状態。リング上でたたらを踏む挑戦者を見て、レフェリーはたまらず試合を止めた。

“ストップが早い”という声もあったが、当のクイリンですらも適切なタイミングであったことを認めていた。挑戦者にとって惜しむらくは、ホールドも、片膝ついての時間稼ぎもできなかったこと。これまで危機に陥る経験に乏しかったクイリンを、そこまで追い詰めたジェイコブスのパワーとラッシュ力を褒めるべきだろう。 

プロデヴュー直後からスター候補と呼ばれながら、ジェイコブスはこれまで常に真価を疑われてきた。ガンとの戦いにより、リングを離れた時期もあった。しかし、ここでついにキャリアの象徴となる勝ち星を手に入れた現役屈指の好漢は、待望された地点までようやく辿り着いた感がある。

「スターが生まれた。とても印象的なパフォーマンスだった。アンディ・リー対サンダース戦の勝者との対戦は興味深いカードになるだろう」

ルー・ディベラ・プロモーターの言葉通り、まずは12月19日に行われるリー対ビリー・ジョー・サンダースのWBOタイトル戦の勝者との統一戦が次のターゲットになる。一部で話が出た通り、アイリッシュのリーと3月のセントパトリックデイに対戦実現すれば、ニューヨークでは特大のイベントになる。また、クイリンとのリマッチも遠からずうちに話題になるに違いない。

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プロモーターの関係でゲンナディ・ゴロフキン、サウル・“カネロ”・アルバレスとの対戦が当面は難しいのは残念。今回は上手くいきすぎた感もあり、会心の勝利の後でも、ジェイコブスは彼らより一段下の存在と考えられていくことは変わらないだろう。

ただ、それでも、スター性とライフストーリーを備えたミドル級のタレントが魅力的な存在であることに疑問の余地はない。ジェイコブスが28歳にして立場を確立したことは、ボクシング界にとっても喜ぶべきことであるはずだ。

ワイルダーの次の相手は?

ボクシングメディアが集まるビッグファイトウィークには、業界関連の多くのイベントが行われるのが恒例になっている。今回も例外ではなく、12月4〜5日にはWBC世界ヘビー級王者デオンテイ・ワイルダーの公開練習、記者会見が開催された。

王者は来年1月16日に同じバークレイズセンターで3度目の防衛戦を行う予定。しかし、試合はもう1ヶ月半後に迫っているというのに、対戦相手は決まっていない。その状態で2日連続のプロモーションイベントを開くのは無意味にも思えただけに、両日共に出席メディアは少なかった。

一時は無敗のヤケスラフ・グラツコフが対戦相手の最有力候補とされ、契約寸前と伝えられた。しかし、11月28日にタイソン・フューリーが番狂わせでウラディミール・クリチコを下し、WBA、IBF、WBO新王者になったことで事態は急変した。

フューリーがグラツコフとのIBF指名戦を早期実現させることは考え難く、IBFタイトル返上か、あるいは剥奪された場合、グラツコフに王座決定戦出場のお鉢が回ってくる。グラツコフがその順番待ちを選び、ワイルダー挑戦に踏み切らなかったのは理解できるところではある。

おかげで当面のダンスパートナーが不在となってしまったワイルダー。今のところ、1月の対戦者にはポーランド人のアルツール・スピルカ(20勝(15KO)1敗)が抜擢されることが有力と伝えられる。いずれにしても、興行面での準備不足は避けられないところだろう。

ワイルダーにとって、次戦はアレクサンダー・ポヴェトキンとの指名戦前の最後の一戦となるはず。その大事な試合は、様々な意味で急ごしらえの印象で挙行されることになりそうである。

コット対カネロのPPVは成功

今週のボクシング界で最大の話題は、11月21日にラスベガスで行われたミゲール・コット対サウル・“カネロ”・アルバレス戦のPPV売り上げが約90万件(収益は約5800万ドル)と発表されたことだった。

9月のフロイド・メイウェザー対アンドレ・ベルト戦(40万件)、10月のゲンナディ・ゴロフキン対デビッド・レミュー戦(15万件)を軽く吹き飛ばす好数値。2002年以降、フロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオ、オスカー・デラホーヤが絡まないPPVの購買数が90万件を超えたのはこの試合が初めてだったという。

ファイトウィーク中にレポートした通り、試合直前のラスベガスにはそれほどのBuzzは漂っていなかった。そんな背景から、実際には65万件ほどだったのではないかとHBOの発表を疑う向きがあるのも事実ではある。

しかし・・・・・・オフィシャルにリリースされた数字が本当なら、カネロの人気の高さはここで改めて証明されたと捉えるべきに違いあるまい。

今回はコットとの中南米ドリームファイトゆえ、その話題性が味方したことは間違いない。筆者を始め、カネロの実力の上限に懐疑的なメディアも依然として少なくない。

ただ、例えそうだとしても、このメキシコの若武者が、前戦ではヒューストンの野球場に3万人以上の観客を集め、今回はベガスのビッグファイトを成功させた意味は大きい。

25歳にして、カネロはアメリカ国内で“ブランド”と呼べる商品価値を築き上げたと言ってもう大げさではあるまい。そして、最新のPPV購買数で大きな差をつけたことは、来年中にも実現が予想されるゴロフキン戦の交渉にも少なからず影響してくることは十分に考えられる。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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