日本代表、アイルランド代表戦黒星から描く未来。【ラグビー雑記帳】
ラグビー日本代表は、どう勝つかの青写真なら示した。
初先発したスクラムハーフ、齋藤直人がトライを決めたのは後半17分だ。
この午後デビューしたウイング兼フルバックのセミシ・マシレワが、自陣左端で相手のキックを先回りして捕球。走り出す。さらに左に待機していたナンバーエイトのアマナキ・レレイ・マフィ、ウイングのシオサイア・フィフィタが、力強く進んで球を繋ぐ。
最後は右側から駆け上がった背番号9がフィニッシュ。直後のゴール成功で31―33と追い上げ、アビバスタジアムへ入場できぬ母国の市民へ期待感を抱かせた。
かようなアンストラクチャーからの組織的な攻めは、現日本代表のお家芸である。先発2戦目のフィフィタはこうだ。
「モーメンタム(勢い)を作ればチームとしていい形はできる」
さかのぼって10―7のスコアで迎えた前半20分頃には、敵陣22メートルエリアで球を保持。背後を通すラストパスこそ反則とされたが、その直前まで素早い球出しを重ねる。
齋藤の運動量とパスが活きた。さらには、接点で対するアイルランド代表からの圧力を首尾よく排除できた。7日前のブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦ではこのエリアで苦しんでいたとあり、短期間で課題を解消したと取れる。主将就任8年目でフランカーのリーチ マイケルは言う。
「(選手の)学びを(自分のなかに)落とし込むスキルが高くて、ここまでいいカルチャーができた」
7月3日、敵地のアビバスタジアム。約20か月前のワールドカップ日本大会で19―12と下したアイルランド代表に、約20か月前と同じ体制ながらも異なる状況で臨む。その時以来の活動再開から2戦目へ、往時のような長期的準備を経ずに挑んだのだ。
果たして当日はスリリングな攻めを重ね、日本代表が計4度もリードを奪う。約2週間の練習で当日を迎えたアイルランド代表が序盤からミスを重ねたこともあり、繰り返せば、どう勝つかの青写真なら示す。
ただし、実際に勝つには、至らなかった。
反則やミスで自陣に押し込まれると、ラック周辺を勢いよく気圧されて失点する。空中戦で2度スティールと奮闘のロック、ジェームズ・ムーアもこうだ。
「(自陣での相手の)ラインアウトから(地上戦へ移って)のディフェンスで、うまくいかないところがいくつかあった」
終盤は自陣からの反攻もむなしく2本のペナルティーゴールで突き放され、リーチは「勝てた試合に負けた」。日本大会で初めて8強入りの新興勢力。伝統国にも勝って然るべきとの思いがあるだけに、悔しさはひとしおだ。
「満足してはいけない。前を向かなくては」
これで今回のツアーの戦績は2連敗。巨躯揃いの欧州列強勢を局所的に手こずらせながら、それぞれ10―28、31―39と落とした。
改めて、日本代表は他国より遅れて再始動して間もない。日本大会前の2年前には現在と似た状況のアイルランド代表に完敗していたことを鑑みれば、日本大会時の状態からそう大きくは後退していまい。
ましてこの日に至ってはナンバーエイトの姫野和樹、フルバックの松島幸太朗といった主軸をそれぞれキックオフ直前、試合中盤に怪我で欠いている。有事と向き合う希少な経験を積み、リーチは「バタバタしなかった」とまとめる。
2年後のワールドカップフランス大会では、優勝経験のあるイングランド代表などとぶつかる。船頭役は「勝つ難しさ、プレッシャー(に関しての学びで)は少しずつ成長できている」。今秋のキャンプ、ツアーでは、さらなる肉体強化、新戦力の発掘が待たれる。
試合直後の齋藤の言葉は、己に向けたものでありながらも組織全体の態度を示す。
「個人としては2試合、この強度でプレーさせていただいたことがいい経験になったと思います。これを次に繋げなければ意味がない。秋のキャンプに向けて、またいい準備がしたいです」