「無意識節水」と「見えない水利用」の広がりで水道経営ピンチ
意識はないが節水行動を実施する「無意識節水」3.4%
8月1日は「水の日」、それから1週間は「水の週間」。
全国各地で水に関するイベントが数多く行われる。
「水の日」は水不足になりやすい8月に「水を大切にすること」を啓発するためにはじまった(その後、2014年に制定された「水循環基本法」によって、8月1日は法律で定められた「水の日」となっている)。
では、実際、人々はどれくらい水を大切にしているのだろうか。
ミツカン水の文化センターの「水にかかわる生活意識調査」(2019年版/東京、大阪、中京圏の1500人にアンケート調査)によると、「節水を意識している」人は67.6%、実際に「節水を実施している」人は66.7%だった。
これらの項目をクロスさせ、意識と行動の関係を表したのが、冒頭のグラフだ。
このなかの「意識はないが節水行動を実施する」3.4%に注目したい。
これを「無意識節水」と呼ぶことにしよう。
このアンケートに答えた人は、「節水しなくちゃ」という意識をいちいちもたなくても節水行動が習慣化しているという意味で、この項目に「イエス」としたのではないか。
だが、「無意識節水」には「習慣化」のほかに「節水機器の普及」という要素がある。
この点を考えれば「無意識節水」はもっと多いはずだ。
たとえば、水洗トイレ。1995年は1回流すと10リットル(大の場合)の水が流れたが、現在では1回4.8リットルの便器が主流だ(最新型は4リットル以下)。1回の「無意識節水量」は5リットル以上。オフィスビルなどが建て替わるとトイレは一新され、集団的「無意識節水」が行われる。
全自動洗濯機の場合は、衣料品1キロを洗うのに必要な水は30リットルだったが、現在では10リットル以下。
食器洗い乾燥機の普及も大きい。5人分の食器を洗った場合、手洗いだと75リットルだが、食器洗い乾燥機では11リットル。水を庫内にためて噴水のように循環させて洗浄。そののち水を入れ替えてからすすぐ。泡立ちが少ないため早くすすげる。
生活習慣の変化も大きい。
1人暮らしの人が風呂に入ると1回180リットルの水を使うが、シャワーだと10分浴びた場合で100リットル。
家庭で調理をせず、調理済みの食品を買ったり、外食したりすれば、食事の準備と後片付けに使う水がゼロになる。
家庭で使用される水を「家庭用水」といい、そのほか病院、ホテル、飲食店等で使用される水も含めて「生活用水」と呼ぶ。1人当たりの生活用水使用量は、2000年頃は322リットルだったが、現在は297リットルになっている。
水を使わない社会は環境のことを考えるととてもよい。
一方で水道経営という視点に立つと「商品が売れない」ということになる。
見えない水利用の増加
一方で、「見えない水利用」が増えている。
近年、自前の井戸をもつ病院やホテルが増えた。地下水は水道法で定められた水質基準を満たし、保健所に届ければ水道水として利用できる。
地下水の利用は、水道料金の支払いの対象にはならない。そのため経費節減になる。
静岡県のある病院は「水道水から地下水に変えた結果、年間500万円の経費節減ができた」。水道水は地下水に異変が起きたときの「万一の備え」であり、普段は全面的に地下水に頼っている。
防災意識の高まりも地下水利用に拍車をかけている。
宮城県のある病院は東日本大震災の時、周囲が2週間断水するなか病院の機能を維持できた。
現在の水道料金は、大量に使うほど割高になるしくみだ。これは「節水の奨励」が目的だった。
すると水を大量に使用する病院、ホテル、大規模店舗、福祉施設などは、水道料金を削減したいと考え、自前の井戸に切り替えた。大口需要を失い水道事業者は大幅な減収になった。
このため使うほど割高になる料金体系を見直し、大口利用の値下げに踏み切る水道事業者、水道インフラを保持するための新たな負担を求める水道事業者が登場している。
見えない水を使うルールはない
水道水は使用していない(使用量が減っている)ので、一見節水が進んでいるように見えるが、目に見えない地下水の利用は増えている場合がある。
民法には「土地の所有権はその上下に及ぶ」と規定され、土地所有者は自由に地下水を利用できる。周辺に影響のない範囲での利用なら問題はない。だが、周辺に影響の出るような水利用をした場合にはどう対処したらいいだろうか。
地下水は地面の下を流れている川のようなものである。上流でたくさんくみ上げれば、下流では地下水量が減ってしまう。
地下水に関するルールをつくるのは簡単ではない。
理由の1つは、地下水が目に見えないために関心をもちにくいこと。そのため多くの人で議論ができない。
もう1つの理由は、既存の地下水利用者が不利益を被ると感じ、ルールづくりに反対すること。
こうした状況を打開するには、「見えない水」を「見える水」にすること、つまり、地域の地下水の現状とルール策定の意義を共有することが大切だ。
「水の日」には蛇口から出る水だけでなく、地下を流れる水についても考える必要がある。