老朽化した水道施設が引き起こす土砂災害のリスク
老朽化した水道施設が土砂災害を引き起こす危険性について、北海道羅臼町での土砂崩れの事例をもとに考察したい。水道インフラの老朽化は昨今よく耳にするが、「どこかで漏水が起きている」などと軽視されることが多い。しかし、羅臼町の事例が示すように、水道施設の老朽化が、災害に直結する可能性があり、早急な対応が求められる。
羅臼町の事例から学ぶこと
2023年10月15日、羅臼町で大規模な土砂崩れが発生し、唯一の道路(北海道道87号知床公園羅臼線)が2.3キロにわたって寸断され、住民(104世帯265人)が数十時間孤立する事態となった。
注目すべきは、この土砂災害の原因である。羅臼町によれば、道路沿いの山の上にある地区で管理している水道施設・水道管が破損し、漏水によって地盤が緩んだ可能性があるという。これは老朽化したインフラの重大なリスクを示す一例である。
土砂災害を引き起こす地下水の流れ
漏水がどのようにして土砂災害を引き起こすのか。一般的に、地下を流れる水の動きによる土砂災害の発生メカニズムには、いくつかの要因が考えられる。
まず、斜面内部を流れる水の量が増えることで、斜面が緩み、土砂災害が発生するケース。次に、斜面内にたまった水が水圧を高めると、斜面を安定させている土や岩の結合力が弱まり、結果として斜面全体が動き、土砂崩れが発生するケース。また、大量の水が新たな通り道を作り、地盤内の隙間を広げることで土砂災害が引き起こされるケースもある。
羅臼町のケースがどれに当てはまるかは調査結果を待つ必要があるが、同様のリスクは全国の山間部や斜面地帯の自治体にも広く存在していることは間違いない。
老朽化が進む水道インフラの現状
では、羅臼町の水道事業はどうなっているのか。羅臼町水道事業経営戦略(平成29年策定)によると、上水道事業1か所、簡易水道事業2か所で水供給が行われているが、設備全体の老朽化が進んでいる。今回土砂崩れが発生した地区には、1967年に建設された簡易水道浄水場があり、これまでに一度も更新されていない。
また、人口減少によって料金収入が減少し、老朽化した施設を更新すると事業収益が悪化する問題もある。有収水量率(浄水場や配水場から送り出す水量に対して、実際に使用される水の割合)が44.8%と非常に低い。例えるならば、浄水場から100リットルの水が出ても、家庭に届くのは44.8リットルで、残りの55.2リットルは漏水していることになる。
水道施設の老朽化は羅臼町だけに限らない。全国的に見ても管路延長約74万キロのうち、法定耐用年数(40年)を超えた管路の延長は約17万キロに達している(23%)。管路の入れ替えは財源や人材不足により遅れており、現在の更新ペースでは全ての水道管を交換するのに140年かかるとされている。毎年2万件以上の漏水や破損事故が発生しており、老朽化が進むインフラの更新は喫緊の課題となっている。
これまで水道施設の老朽化は断水(災害時の断水の長期化)と結び付けられることが多かったが、羅臼町での事例は、老朽化した水インフラが今後さらなる災害を引き起こす予兆であるといえる。
モニタリング技術と予防対策の重要性
老朽化した水道管の漏水による災害を防ぐには、現代の技術を活用した予防的な対策が必要だ。最新のモニタリング技術を導入すれば、漏水や水圧の異常を早期に検知できる。実際、国内外で先進的なモニタリングシステムが導入されており、漏水事故を未然に防ぐ事例が増加している。こうしたシステムを全国的に導入することで、インフラ老朽化がもたらす災害リスクを大幅に軽減できるだろう。
ただし、これには財源が必要であり、異常を検知した後に対策を実行する人材の確保も課題である。財源と人材の問題は避けて通れないが、適切な対応が求められる。
羅臼町の事例は水道施設発の災害予兆である
羅臼町での土砂崩れは、水道施設から発生する災害の予兆と捉えるべき。大規模な災害が発生する前に警告を発しているのである。この警告を軽視せず、全国の自治体は老朽化した水インフラの更新に真剣に取り組まなければならない。特に、山間部や斜面地帯の施設は、その地域の地質にもよるが、漏水による土砂災害のリスクが高い。今後、気候変動に伴う豪雨が増加することも予測されるため、早急な対策が求められる。
水道管や水道施設の更新にはコストがかかるが、住民の命と生活を守ることが最優先である。羅臼町の事例を教訓とし、全国的なインフラ更新とモニタリング体制の強化に取り組むことで、将来の災害を未然に防ぐべきだ。