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なぜ「サッカー」は最強のエクササイズなのか

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 W杯が盛り上がっているが、途上国にも強豪国があるように、フットサルを含むサッカー的な運動は年齢や性別などに関係なく、特殊な器具をそろえずともボールさえあればほとんどどこでもできる。最近、余暇に行うサッカーが、健康維持や生活習慣病の予防や治療に適したスポーツだという論文が出た。

サッカーで血圧を下げる

 日本でもサッカーは完全に市民権を得て、競技人口は数百万人いると見積もられている。日本サッカー協会(Japan Football Association、JFA)に参加しているサッカーチームは2万8210チーム、フットサルを除くサッカー選手数は91万5306人(※1)となっているが、JFAに登録していないサッカー愛好者やレクリエーションでサッカーをやっている草チーム参加者を含めればさらに多くなるだろう。

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JFAに登録しているサッカー選手(フットサルを除く)の数の推移(※2)。グラフ作成筆者。Via:公益財団法人日本サッカー協会のホームページのデータ

 ところで、学生時代にスポーツをやっていた人も社会人になると運動量が減る傾向にある。身体的な運動は、死亡率を下げ、生活習慣病、肥満などになる割合を減らし、メンタルヘルスの維持にも効果的ということが知られている。また高齢者も日常的に適度な運動をすることで、寝たきりを防いだり死亡率を減少させる。

 公的なスポーツ施設の開放や利用時間の拡大など、行政も国民が運動できる環境を整えようとしているが、地域のクラブなどスポーツへの自主的な参加も習慣的な運動にとって効果的だ。ちょっと探せば近所にハイキングやダンスなどのリクリエーションクラブやテニスやゴルフなどのスポーツクラブがある地域も多いと思う。

 心肺機能や筋力の低下は日々や将来の健康に様々な影響を及ぼすが、最近の研究から余暇に行うリクリエーション的なサッカーに大きな効果があることがわかってきた(※3)。若い世代だけでなく、サッカーは中高年の肥満や心血管疾患の予防にも効果があるようだ(※4)。

 セルビアのニシュ大学などの研究者が2018年に英国の医学雑誌『BMJ』の「British Journal of Sports Medicine」オンライン版に最近出した論文(※5)によれば、リクリエーション・サッカーをすると血圧を下げて心拍数を安定化させ、脂肪を減らし、いわゆる悪玉コレステロールであるLDLコレステロールの数値を減らす効果があることわかったという。また、下半身の筋力を評価するジャンプ力(※6)の向上もみられた。

 この研究では、サッカーの健康影響に関して過去に行われた31の研究論文を比較し、血圧、安静時の心拍数、体脂肪率、代謝、跳躍能力を調べた。比較した研究は、サッカーの効果とほかのリクリエーション・スポーツとの違いを評価したものだ。

 すると、サッカーはほかの運動と比べ、血圧を低下させる影響があることがわかり、すでに高血圧ぎみの人や軽い高血圧の人に対して特に効果があった(※7)。また、安静時の心拍数も平均して下げる作用があり(※8)、体脂肪率やLDLコレステロールも減り、ジャンプ力も高まったという(※9)。

 サッカーのような運動には、断続的反復的な有酸素運動と筋力強化が期待できる。研究者は、サッカーのトレーニングを16〜52週ほどやるような有酸素運動は、血圧の低下に効果があるのではないかという。

 また、週に2回、60分ほどサッカーをすると肥満の予防につながる可能性が高く、女性のほうが効果が高い傾向があることがわかった。サッカーの効果的な有酸素運動により、血中のリポタンパク質の応答でLDLコレステロールと中性脂肪を減少させ、いわゆる善玉のHDLコレステロールを増やすことも示唆されたという。

 もちろん、これはW杯に出場するような選手の話ではなく余暇に一般人が楽しむリクリエーション・サッカーについての研究だが、サッカーやフットサルはボールさえあえば気軽にどこでもでき、ルールも簡単で仮に一人でも楽しめる。屋外でプレーすることも多いから、太陽光を浴びるだけでも気分転換やストレス解消になるだろう。

 今日は日本代表の初戦だ。W杯で寝不足ぎみだが、たまには外へ出てボールを蹴ってみるのもいい。

※1:公益財団法人日本サッカー協会のホームページより(2018/06/19アクセス)

※2:第1種(年齢を制限しない選手により構成されるチーム)、第2種(18歳未満の選手により構成されるチーム。ただし、高等学校在学中の選手にはこの年齢制限を適用しない)、第3種(15歳未満の選手により構成されるチーム。ただし、中学校在学中の選手にはこの年齢制限を適用しない)、第4種(12歳未満の選手により構成されるチーム。ただし、小学校在学中の選手にはこの年齢制限を適用しない)、女子(女子の選手により構成されるチーム)、シニア(40歳以上の選手により構成されるチーム)の合計。1979〜1999年までシニアを含まない。年齢は当該年度開始日の前日(3月31日)現在の年齢

※3:Jens Bangsbo, et al., "Recreational football for disease prevention and treatment in untrained men: a narrative review examining cardiovascular health, lipid profile, body composition, muscle strength and functional capacity." British Journal of Sports Medicine, Vol.49, Issue9, 2015

※4:M B. Skoradal, et al., "Football training improves metabolic and cardiovascular health status in 55‐ to 70‐year‐old women and men with prediabetes." SCANDINAVIAN JOURNAL OF MEDICINE & SCIENCE IN SPORTS, DOI: 10.1111/sms.13081, 2018

※5:Zoran Milanovic, et al., "Broad-spectrum physical fitness benefits of recreational football: a systematic review and meta-analysis." British Journal of Sports Medicine, doi:10.1136/bjsports-2017-097885, 2018

※6:Counter Movement Jump、CMJ:カウンター・ムーブメント・ジャンプ:腰に手を当てて上半身に頼らずに下肢筋力を評価する垂直跳躍法

※7:運動をしない群と比べ、収縮期血圧(SBP)で平均4.20mmHg減(95%CI:1.87〜6.53)、拡張期血圧(DBP)で平均3.89mmHg減(95%CI:2.33〜5.44):血圧には、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)、脈圧(PP)、平均血圧(MBP)の4つの指標がある

※8:6.03bpm(1分間の脈拍数、95%CI:4.43〜7.64)

※9:体脂肪率(Body Fat Mass):平均1.72kg減(95%CI:0.86〜2.58)、LDLレベル(Low-Density Lipoprotein Levels ):0.21mmol/L(95%CI:0.06〜0.36)、CMJ:平均2.27cm増(95%CI:1.29〜3.25)

※2018/06/19:16:23:「 サッカーのような運動には、断続的反復的な有酸素運動と筋力強化が期待できる。研究者は、サッカーのトレーニングを16〜52週ほどやるような有酸素運動は、血圧の低下に効果があるのではないかという。

 また、週に2回、60分ほどサッカーをすると肥満の予防につながる可能性が高く、女性のほうが効果が高い傾向があることがわかった。サッカーの効果的な有酸素運動により、血中のリポタンパク質の応答でLDLコレステロールと中性脂肪を減少させ、いわゆる善玉のHDLコレステロールを増やすことも示唆されたという。」のパラグラフを追加した。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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