ステラ・マッカートニーの超越瞑想展で心の平和と直観を磨く【インスピレーション源を求めて:パリ編1】
2019年春夏シーズンものを披露するパリコレクションが9月24日から10月2日まで行われたのに合わせて、インスピレーション・トリップと称してパリを訪問した。エディターやバイヤーなど影響力を持つ世界のファッション業界人が一堂に会するとともに、秋商戦本番となるこのタイミングに合わせて、百貨店やブランド、小売店などは様々な趣向を凝らしていて、ショー以外にも見どころは満載だ。
なかでも興味を惹かれたのが、仏最大級の百貨店ギャラリー・ラファイエット本店で行われていたステラ・マッカートニー(Stella McCartney)による企画展"SANCTUARY OF STILLNESS"展だ。ギャラリー・ラファイエットはファッションを通じて社会や人々の生き方を良くするためのサステイナビリティ施策「GO FOR GOOD」を全館挙げて開催しているところ(詳細は後日掲載予定)。ヴィーガンで、サステイナブル・ファッションの先駆者であるステラはそのアンバサダーも務めている。
彼女が“SANCTUARY OF STILLNESS(静かなる聖域)”で打ち出したのは、TM(TRANSCENDENTAL MEDITATION)、日本語でいうところの「超越瞑想」だった。最近注目を集めているマインドフルネスにも近いものがある。
TM=超越瞑想とは、インドのヒンドゥー教から派生した考え方で、1958年にマハリシ・マヘーシュ・ヨギーによって世界に紹介されたのが始まりといわれている。
通常の瞑想は、心を静めたり、心を集中力させて無の状態になることで、潜在意識が活発化し、ひらめきが生まれるというのが定説だ。マインドフルネス瞑想は、仏教からはじまり、呼吸を意識して感覚を集中することで、思考と感情のバランスを培い、受容力を高めるものだという。
一方の超越瞑想では、マントラ(真言、短い語句や音)を繰り返し唱えることで雑念を払い、心を静寂にさせるもの。通常のリラクゼーションや睡眠よりも心身に深い休息を与え、ストレスホルモンが減少して幸福ホルモンが増大し、心の安寧や幸福感を得られたり、脳が活性化したり、自然治癒力が高まるという調査結果も発表されている。
会場であるギャラリー・ラファイエットの展示スペース「ギャラリー・デ・ギャラリー」(Galerie des Galeries)の入り口には、脳内、あるいは産道のようなトンネルがある。そこを通り抜けると、ステラのメッセージが。さらに、デヴィッド・リンチ財団から発行された、マハリシの教えを広める超越瞑想の世界的権威であるボブ・ロス(Bob Roth)の著「STRENGTH OF STILLNESS , The Power of Transcendental Meditation」(日本語訳:静寂の強さ、超越瞑想の力)から引用した言葉がまとめられている。
*UNITY IN THE MIDST OF DIVERSITY.
*THE HIGHEST STATE IS LAUGHTER.
*DON’T GO FOR WHAT YOU KNOW YOU CAN GET.GO FOR WHAT YOU REALLY WANT.
*MADITATE AND ENJOY.
*TRUE HAPPINESS LIES WITHIN.
*THE THING ABOUT MEDITATION IS YOU BECOME MORE AND MORE YOU.
*IF YOU WANT CATCH t THE BIG FISH YOU HAVE TO GO DEEPER.
*NEGATIVITY IS THE ENEMY OF CREATIVITY.
訳すとこんな感じになる。
*多様性の中での統一。
*最高の状態は、笑っている人だ。
*手に入れることができるとわかっているものではなく、あなたが本当に欲しいものを求めなさい。
*メディテーションをして楽しもう。
*真実の幸福は内にある。
*メディテーションをすればするほど、あなたはあなたらしくなる。
*大きな魚を捕まえるには、深く潜らなければならない。
*ネガティブな心はクリエイティビティの敵だ。
最初の暗室では、TM歴40年の映画監督デヴィッド・リンチが登場する短編フィルム「Curtain's Up」が繰り返し流れている。これはデヴィッド・リンチの息子のオースティン・リンチとケース・シモンズが設立したクリエイティブスタジオが制作したものだ。デヴィッド自筆の瞑想解説図も無料で手に入れられるようになっている(ちなみに、「デヴィッド・リンチ財団」では、学校教育にTMを採り入れる活動も支援している)。
その横に広がるのは、“108 BEADS”の壁だ。真っ白の壁に煩悩の数と同じだけ石が吊り下げられている。これを清水寺の胎内めぐりのように触りながら、祈ったり、頭に浮かんだことやメッセージをボードに書き残すことを推奨している。
さらに、その奥には、柱に覆われ苔と石が敷かれたうす暗いドームが登場。ここで超越瞑想を体験してほしいというわけだ。
ステラの父、ポール・マッカートニーが活躍したビートルズは、1960年代後半にマハリシを追ってインドに向かったことがあり、超越瞑想はフラワーチルドレンなどヒッピーの間でもムーブメントになったという。その後、しばらく下火になったが、再び注目が集まり、映画監督のデヴィッド・リンチが2005年に超越瞑想を支援する団体を設立したり、ニコール・キッドマンやジム・キャリー、キャメロン・ディアス、ケイティ・ペリー、グウィネス・パルトロー、ヒュー・ジャックマン、ジョージ・ルーカスらが超越瞑想を実践していることを公言し、実践を勧めたりするようになっている。おそらく、2001年の9・11や2008年のリーマン・ショック、そして最近のデジタル化社会などが大きなきっかけだったと思われる。
こちらパリでも、瞑想は人気が高まっている。地下鉄の交通広告には、「Petit BamBou」(プチバンブー)という瞑想関係のサービス提供者によるアプリの広告があちこちに掲載されていた。
ビートルズのジョン・レノンはかつて、伝道者だったマハリシや超越瞑想に対して、「今の若者たちは答えを探している。教会は適切な答えを出せないし、両親にも無理だ。物質的なことでは答えを出せない」「ヨガにはたくさんのテクニックがあるから、この瞑想法だけがそこ(自身の深部・魂)に到達できる方法だとは思っていない。重要なのは神聖な魂であり、瞑想はその神聖さを引き出し、神聖な状態になるためのテクニックだ」と語ったことがある。
忙しく、情報過多な日常生活の中で、疲れを癒やし、ストレスを軽減し、落ち着きを取り戻して平和に暮らすことはとても大切なことだ。成功者には瞑想をしている人が多い。VUCA(不確実性)の時代には不安も大きいが、毎日自らの心と向き合い、大切にしたい価値観やぶれない軸を日々意識することで、直観に従って即断即決できたり、その決断や行動に自信をもてるようになるのだと感じた。
10月1日の朝に発表されたステラの最新コレクションも、従来のエフォートレス(抜け感のあるスタイル)から一歩進み、フェミニンな中にやさしさと強さが感じられる、軽やかなものになっていたのが印象的だった。超越瞑想展は10月10日まで(月曜を除く、入場無料)。