店舗への商品入荷をLINEで通知する新機能がアパレル・小売企業を救う!? 開発背景とパルの導入理由
コロナ禍が明けインバウンドも活発化する一方で、店もブランドもショッピングモールもECも増えて競争が激化したり、円安や資源高、物流費や人件費の高騰などにより利益が圧迫される中、アパレル・小売り企業でも好不調の格差が激しくなっている。価値と価格のバランスが良いものを提供することはもちろんのこと、「この店で買いたい」「このブランドで買いたい」「この人から買いたい」と思われる顧客体験を提供する重要性も増している。よりコアなファンになってもらうことも重要だが、一方で、いろいろなお店を比較してその時々にマッチしたところで購入する浮遊層や、ファッションに対する興味関心はそれほど高くないけれども気に入ったものを気軽に買いたいというライト層に対する好適なアプローチやサービスを強化することも求められている。
そんな中、「えっ、そんな簡単に導入できて、効果が上がるの!?」「何で今までなかったの?」と思えるような新機能が登場した。オンラインストア(EC/通販サイト)の再入荷通知やカート落ちリマインドなどのメッセージをLINEで自動配信できるツール「WazzUp!(ワズアップ!)」を提供するFANATIC(ファナティック)が、2024年2月から新たに提供する「リアル店舗への商品入荷通知サービス」だ。その第1号として導入したのが「スリーコインズ」や「チャオパニック」「ガリャルダガランテ」などを手がけるパルだ。ファナティックの野田大介社長と、パルの堀田覚専務執行役員・プロモーション推進部長に、店舗入荷サービスの特徴や導入理由、さらには購買行動が変化する中で、アパレル・小売りが取り組むべき課題を聞いた。
――「ワズアップ!」ではクライアント企業・ブランドのECとLINEを連動し、CRM(顧客関係管理)の自動化を支援し、販売促進や顧客満足度の向上を目指してきた。今回スタートした「店舗への商品入荷通知」はどんなメリットのある機能なのか?
野田(ファナティック):ECでお客さまがリクエストした商品が希望する店舗に入荷したら自動で入荷連絡がLINEで届く、という機能で、通販サイトでは定番の「再入荷お知らせ」の店舗版と言える。ECでは当たり前にできていることだが、店舗ではありそうでなかった、灯台下暗しのサービスで、店舗への送客も含めて、まさにOMO(オンラインとオフライン/ECとリアル店舗の融合)の新しい事例だと自負している。
通販サイトの予約や再入荷連絡では「商品が試せない」し、店舗で入荷連絡や取り置きをするには店員さんを介さなければならず、「購入のプレッシャーが強くなり躊躇してしまう」といった課題があった。商品が欲しい、買いたいと思っていても、心理的障壁によって黙って離脱している人は実はかなり多いと思われるが、日本中のあらゆる店舗が一切可視化できず、アプローチもできていなかった。
今回の機能は「人を介さずに入荷通知をリクエストできて、仕事帰りや休みの日などにフラッと寄って、実際に商品を確かめ、気に入ったら買う」という多くのお客さまが本質的に望んでいる購入体験を実現できる機能となっている。来店促進や売上げ向上だけでなく、実店舗でのリクエスト数がわかるようになるため、商品の配分や追加発注の精度向上などにつながり、在庫の無駄や機会ロスの削減や消化率の向上、ひいては利益率の向上にも寄与できると思う。しかも、お店や企業にとってはリクエストされるとLINE公式アカウントの友だちが増えることになり、LINEを通じたマーケティング&プロモーション施策も打ちやすくなるというメリットもある。
実装は簡単で、商品詳細ページ上の店舗在庫表示部分にHTMLタグを埋め込んでお知らせ登録ボタンを付けるだけ。お客さまはそのボタンを押して「お知らせ登録」するだけ。LINE公式アカウントからの入荷通知配信は完全自動なので運営側の手間も省ける。開発自体はそれほど難しくなくて、アイデアやひらめきの部分が大きい。国内で9人しかいないLINEの認定講師「LINE Frontliner(ラインフロントライナー)」が設計・開発した独自技術で、特許出願中だ。これにより、国内で初めて通販、実店舗問わず、すべての店舗の再入荷商品や予約商品の入荷通知を、メールより効果の高いLINEで配信することが実現する。少人数で手がけていることもあり、コストも安価だ。
――パルはスタッフのコーディネート投稿やAI活用など、新しいサービスや実験的な取り組みに前向きだ。今回もサービス導入の第1号になったが、決定した理由は?
堀田(パル):ミーハーなので、いいなと思ったらすぐに試してみたいなと。コロナを機にユーザー行動は大きく変わった。お客さまとの接点がデジタルに閉じていた時期に、情報を見る癖・習慣ができて、ECやSNSなど事前に情報をインプットしてから買い物に行くことが当たり前になった。どの街のどこの店に行くのか、どんな商品を探すのか。無目的でお店に行く人はかなり減る中で、店舗への入荷通知は、ユーザーの行動を引き起こすのに有効だと感じた。とくにコロナが明け、昨春ごろから目に見えてお客さまがリアル店舗に戻ってくる中で、「リアルにモノを見て買い物をしたい」というお客さまのニーズを肌感として感じていたということもある。
アパレル各社では、店舗での取り置きや客注、ECで購入して店舗で受け取るといったサービスをしているところも多い。かゆいところに手が届く良いサービスだとは思う。でも、52週MD(商品計画)で、短い商品サイクルで販売していく中で、個別に商品を移動させたり管理したりストックに商品を寝かせる期間が生じるなど、商品のスムーズな回転や運営とは少し異なる流れや、逆に販売機会ロスにつながるなど、悩ましいところがあった。お客さまアンケートでも優先度はあまり高くなかったので、パルではそういったサービスは行わず、ECでの予約販売に力を入れてきた。ただ、予約販売から通常販売に切り替わるタイミングでの通知以外に、リアル店舗でお客さまに買い物をしていただく積極的な導線がないことは気になっていた。OMO施策の重要性が増す中で、もう少しお客さまに便利なサービスがあればいいなと思っていたところ、昨夏に野田さんからお話をいただいた。ECでの再入荷通知機能には効果を感じていたし、それが店舗でも使えて店舗への導線にもなるのならばと導入を決めた。
――2月からテストをスタートしてきたが、店舗入荷通知の活用状況や売上げ状況は?
野田(ファナティック):リクエストの総額は毎月、億単位になっていて、正直、こんなにニーズがあるのだと驚いた。それまでの利用状況と比べて、ECを見て何も買わないで離脱していた人や、店舗で買い物をしたいという目的を持ってECを見ている人というのがかなりいることに改めて気付いた。
堀田(パル):管理画面でリクエストの状況を見て、目からウロコが落ちるというか、予想以上にニーズがあることがわかった。実際の購入に結び付いているのかはデータがとれていないが、お客さまの送客・誘客には間違いなく寄与している。これまで、「再入荷リクエスト」や「お気に入り」などでユーザーニーズをMDに活用してきたが、野田さんも言っているように、リアル店舗のお客さまが望んでいることの一端が可視化されてわかるようになるので、店舗への商品配分、ディストリビューションの作業に反映したり、MDの精度を上げていくことに資する可能性があると感じている。
現在は在庫連携をしていないグループ企業を除き、6~7割のファッション系ブランドに導入している。未導入だが一番効果を期待しているのが雑貨の「スリーコインズ」だ。なぜなら、客数がダントツに多くて、取り扱いアイテムがとても多くて、しかも、「〇〇〇の商品はありますか?」「いつ入荷しますか?」などめちゃめちゃ店舗に問い合わせが来ているからだ。店舗在庫の表示もしてこなかったが、整備して店舗入荷通知ができるようになれば、お客さまの「不」を解消できるし、セルフサービスのオペレーションが命の業態で、店舗運営面でも効果が発揮できそうだ。
今はLINEでの通知だが、これから自社のネイティブアプリでできるかも検討したい。LINEの通数課金も減らせるし、アプリの活用活性化にもつながる。そうなると、購買履歴や来店検知を含めたいろいろなデータが連携できるようになり、データも可視化され、もっといろいろなことができるようになると思う。
――ブランドや店舗のファンはもちろんのこと、ライトユーザーや、ブランドや店舗や情報を行き来してチェックしている浮遊層、あるいはリアルで間違いのない買い物をしたい堅実層などさまざまな方々に利用いただけそうだ。開発の背景は?
野田(ファナティック):「ワズアップ!」で取り置き、取り寄せ、試着予約などの通知サービスを行う中で、1年半ほど前から違和感が生じたことが今回のきっかけになっている。世の中には新商品や人気商品の紹介、コーディネートの投稿や配信など、買うべき商品をわかりやすく伝えるコンテンツが多い。それは「選べないお客さま」が多いからだなと。僕たちがやってきたのは、服を選び、買う一歩手前の段階で便利になるサービスであり、これって服好きの人の視点の、自分で服を選べる前提でできている機能だと気付いた。
だから、今回の店舗入荷お知らせサービスは、服にあまり詳しくなかったり常に興味を持っているというわけではない人の助けになる機能にしたかった。たとえば、コートが欲しい、パンツが欲しいなど、服の大カテゴリーぐらいをイメージしている人などは、「入荷のお知らせ」をきっかけに店に行き、その商品を見て良かったら買う。そのためにお客さまが欲しいと思っている情報を簡単に入手できるようにしたかった。
堀田(パル):ライトにアクションできるのがとても良い。僕も取り置きをお願いすると、「やっぱりいりません」とは言いにくくなるし、とくにある程度買い物しているお店やブランドだと不義理はできないと感じてしまう。そういう人は実はかなりいて、よっぽど欲しいものでないと取り置きはしたくないだろうし、今回のような、リクエストしておけば通知してくれる、店には行っても行かなくても、買っても買わなくてもいい、というぐらいが気楽で良いかなと思う。
パルが強化している予約販売で買っていただくお客さまは、そのブランドが好きな方や、次のシーズンを見越して買われる方で、ファッションに対する興味が高い方が多い。でも、それよりももっとライトに、実際に服の現物が店舗にあるならそれを見て買いたいという方も多く存在している。今回の店舗入荷通知サービスでは、そういった方々にも喜んで活用いただけると思う。
野田(ファナティック):それも今回のサービスを作った大きな理由だ。販売員に取り置きや連絡をお願いすると断りづらい。そういった状況になるのが嫌でそっと離れている人ってめちゃめちゃいると思う。会員登録もID連携も不要で、まったく人を介さず、ちょっと気になった商品が近くに入荷したと通知が受けられ、ふらっと店に行って実物を見て、良かったら購入する。これまで可視化できていなくて、アプローチもできていなかった層に、ライトに「よかったらどうぞ~」というテンションでサービスを提供し、気楽に使ってもらえれば嬉しい。
――最近、リアル回帰の流れが顕著で、ECは成長が鈍化したという話も、SNSを含めてマーケティングコストや顧客獲得コストも上がっているとも聞く。
堀田(パル):昨春夏まではコロナからのリバウンドがあったが、昨秋ごろから潮目が変わった。暖冬の影響だと言うところもあるが、それ以上に消費者の需要やマインドが変わった。とくに若い世代向けのゾーンは厳しい。これからますます淘汰されていくと思う。パルはブランド横断型の自社EC「パルクローゼット」の会員組織とUIがあり、この中で買い回りをしてクロスセルが起きている。今後のさらなる強みになってくると思う。2024年2月期に483億円超(前期比22.3%増)だったEC売上高は2025年2月期に600億円(同24.2%増)を目指すなど比較的順調だ。アプリ会員は1200万人獲得が目標だ。
LINEの活用については、ミニアプリ会員が170万人いるけれど、課金制、従量制なので、お祭りのようなイベント時には良いが、一斉配信をするとハズレが多くなり、コスト負けしてしまうことになる。セグメント分けしたり、パーソナライズしたメッセージを発信していくことが必要になる中で、今回のLINEでの店舗入荷通知は、明確にユーザーが教えてほしいという事柄に対して通知するわけで、いつもユーザーが見て使っているSNSで良い形でパーソナライズした情報を提供する、しかもリクエストと同時に友だちの数も増えるという、有意義なサービスだ。そういった、まさにお客さまとの密接度の高まりにつながる良い施策はこれからの時代の重要なカギを握ると思う。
そして、繰り返しになるが、可視化できていない「ライト層のニーズ」をつかむことがより重要になってくるだろう。インフルエンサーによるライブコマースなども人気だけれど、リアルにインフルエンサースタッフに声をかけたり質問したりするのはハードルが高いなと感じたり、話しかけるのは申し訳ないなと思ったり、抽象的な質問はしないほうがいいかなとか、遠慮される方も多い。投稿などに対しても、「いいね」ではなく、外から反応が見えない「保存機能」が使われるようになったりもしている。パブリックに行動が明かされることがためらわれたり、もっと閉じたいと思っている人は増えていると思う。実は、AIチャットを導入したのもその一環だ。会員登録していただいている、見えているお客さまはもちろん大切にしつつ、見えていないお客さまや浮遊層など、ふわっとした方々と心地良い範囲で関係性を築いていくことも大切だと思っている。
野田(ファナティック):店舗入荷通知機能はすでに大手や中堅のアパレルなどいくつかの企業で導入が決まり、興味を持っていただいているところも多いと手ごたえを感じている。もともと服好きが作った会社でありサービスだが、これを機にライトな層に向けた機能もブラッシュアップしていく。ただし、わざわざお店に行くという体験を大事にしてほしいという思いは変わらない。ファナティックが手がけるwebメディア「MIMIC(ミミック)」を通じて、6月15日(土)・16日(日) に、東急プラザ表参道(オモカド)5階LOCULで、ストリートカルチャーが最もアツかった90年代〜2000年代初頭の買い物体験をシーンを作り上げてきた当事者たちと令和に復刻する「《 あんとき 》 マーケット」を開催するのもその一環だ。OMOの顧客体験向上やCRM、そしてこういったイベントを通じて、アパレル小売業やファッション業界を盛り上げていきたい。
*文中の写真はファナティックから提供