【チョコレートの歴史】アステカのチョコレート事情とは?甘美な一杯に秘められた歴史
チョコレートという名の飲み物は、アステカ文明においてただの嗜好品にとどまらず、特別な意味を持っておりました。
貴族や戦士がその官能的な味わいを楽しむ一方で、カカオ豆はケツァルコアトル神からの贈り物とされ、神聖な象徴ともなっていたのです。
その赤みがかった飲み物は、血液を模したと言われ、祭儀や人身御供の儀式においても重要な役割を果たしました。
供物や通貨としての価値も高く、豆一粒がトマトを、一袋が七面鳥を買えるほどの経済的な力を持っていたのです。
アステカのチョコレート文化には、特有の作法がありました。
女性たちが容器から容器へ注ぎながら泡を立て、蜂蜜や乾燥花、唐辛子といった香辛料を加えることで、その味わいを高めたのです。
ただし、庶民には手の届かないものであり、宴席では貴族や王族に最後の一杯として振る舞われました。
一方、戦場では兵士たちが覚醒剤のように利用し、固形化されたカカオペーストを携行食として消費していたというから驚きです。
カカオの供給地であるソコヌスコは、チョコレートの生産地として特別な位置を占めておりました。
カカオ豆を担いだポチテカ商人が山越え谷越え運び、その価値は計り知れませんでした。
しかし、時には偽造品も混じり、代用品としてアマランサスやワックスが用いられることもあったとか。
そんなアステカのチョコレートは、スペイン人によってヨーロッパにもたらされ、やがて世界中へと広まっていきました。
壮麗で神秘的な飲み物として愛されたその歴史は、私たちが味わう一杯のカカオの中に息づいているのです。
ソフィー・D・コウ&マイケル・D・コウ著、樋口幸子訳(1999)『チョコレートの歴史』河出書房新社