【チョコレートの歴史】チョコレートの広がりについて!17世紀、ヨーロッパを巡る甘く苦い飲み物たち
チョコレートの歴史をたどると、そこには一杯の飲み物以上の物語が広がっています。
スペインの宮廷に初めて登場したのは1544年のこと。
マヤの貴族が運んできたカカオは、当初薬用として扱われ、媚薬としての評判まで立つ始末。
しかし、17世紀に入るとその用途は徐々に広がり、飲み物としてのチョコレートはヨーロッパのエリートたちの間で大いに人気を博しました。
同じ頃、紅茶とコーヒーもまたヨーロッパへと伝来し、競うようにその地位を確立していきます。
イタリアではチョコレートにジャスミンやアンバーグリスを加える実験が行われ、フランスでは銀製のチョコレートポットが生まれました。
さらには健康への影響に関する論争が巻き起こり、「飲み物なのか食べ物なのか」という問いが貴族たちを悩ませたともいいます。
それでも貴婦人たちは熱心にチョコレートを愛飲し、1684年にはついに「有益」との結論が出されたのでした。
一方、イギリスではチョコレートが商品化され、コーヒーハウスで提供されるようになります。
その製法は比較的単純で、広い層が楽しむことができました。
さらに、17世紀末には海軍の配給品にまで含まれるようになり、イギリスから北米やフィリピンなどの植民地へと輸出されていきます。
そして極めつけは、フランス貴族の手紙に記された逸話。
「コエトロン侯爵夫人が妊娠中にチョコレートを摂り過ぎて黒い赤ん坊を産んだ」などといった噂話も、17世紀の人々の想像力を駆り立てました。
こうしてチョコレートは、飲み物から物語を生む一杯へと変わり、ヨーロッパの歴史にその甘く苦い香りを漂わせたのです。
ソフィー・D・コウ&マイケル・D・コウ著、樋口幸子訳(1999)『チョコレートの歴史』河出書房新社