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青森づくしの映画『いとみち』に主演の駒井蓮。津軽三味線を弾く女子高生役で見せた“じょっぱり”ぶり

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)2021『いとみち』製作委員会

青森出身の横浜聡子監督がメガホンを取り、オール青森ロケで撮影された映画『いとみち』。主人公も平川市出身の新進女優・駒井蓮が演じた。訛りの強い津軽弁をクラスで笑われ、得意だった津軽三味線も弾かずにいたが、自分を変えようとメイド珈琲店でバイトを始める役。じょっぱり(意地っ張り)な少女が様々な葛藤を乗り越えて成長する、地に足のついた青春ストーリーを体現した。

静かに畑を耕すような日常が好きです

――『いとみち』で演じたいとがしゃべる津軽弁は、蓮さん自身も使っていた言葉ですか?

駒井 地元では津軽弁でしゃべっていました。私も訛っているほうでしたけど、いとは別格というか(笑)。おばあちゃん世代のレベルの訛り方でした。

――観ていて字幕がほしい感じがしました(笑)。じゃあ、練習は結構したんですか?

駒井 撮影に入る前に、いとのしゃべり方や訛り具合を監督と何回も練習しました。方言指導の方がいらっしゃって、たとえば「○○です」が「○○でさ」になるとか、語尾の違いや青森ならではの発音を細かく調整して、あの訛りができた感じです。

――自分のことを「わぁ」と言ったり。

駒井 それは実際に結構聞きます。私は使いませんけど、同級生も普通に「わぁ」は言ってました。

――オール青森ロケで、五能線や岩木山や浅虫海岸などに馴染みはありました?

駒井 私の本当の地元でした。五能線も乗ってましたし、生まれ育った地域の馴染みのある風景が映画になるのは、すごく面白かったです。

――一蓮さんは地元愛が強いんですか?

駒井 強いです。私も含めて、青森の人は自分の地元を大好きで、ロケ地でいろいろな方とお話しさせていただくと、それが伝わってきました。

――青森のどんなところが好きですか?

駒井 地元にいると落ち着きます。青森の人はせっかちでお祭り好きだったり、派手な部分もありますけど、普段の穏やかにお話をしたり、静かに畑を耕したりする日常が、私は好きですね。私もおばあちゃんと畑仕事をしてました。

――どんな畑仕事を?

駒井 おばあちゃんが育てていた苺を一緒に収穫したり、雑草を取ったり。おじいちゃんが農家で、桃の収穫を手伝ったりもしました。

――都会の女の子みたいに、虫が出たらキャーキャー言ったりもしないで?

駒井 ないです。虫のサイズが東京とは違うんです(笑)。これはたぶん、慣れですね。

三味線は目をつぶっても弾けるようになって

――津軽三味線は1年くらい練習したそうですね。

駒井 9ヵ月くらいやっていたんですけど、もともと去年の5月に撮影予定だったのが、コロナで9月に延びてしまって。当時は残念な気持ちもありつつ、三味線はより深められたので、結果的にはありがたかったです。劇中で弾いた3曲を、ちゃんと練習できました。

――最初から先生に「素質がある」と言われていたとか。

駒井 ピアノをやっていたので、楽譜がなくても音を当てるのは得意なんです。それが活きたかなと思います。

――練習は1日何時間もしたんですか?

駒井 最初は音を鳴らすまでに時間がかかってしまって、少しずつやっていたんですけど、自粛であまり外を出歩けなくて、練習が途切れ途切れになってしまったんですね。その反動で、自粛期間が終わってから拍車がかかって、毎日弾きまくりました。長いときは1日7~8時間、練習しました。

――それはすごい。辛いこともありました?

駒井 全然ありました。やっぱり痛いんです。弦を押さえる左手は指が痛いし、バチで弾く右手は手首が痛くて、だんだん攣ってきたりもして。精神的にも「何でこんなにできないんだ……」って焦ったときもありました。

――劇中では見事な演奏を披露してます。

駒井 長い期間練習した甲斐があって、体に染み込んでいたので、本番では何も怖気づかず、演奏できたと思います。

――クライマックスのライブでの『津軽あいや節』は、目をつぶって弾き始めていました。

駒井 できたんですよね。最初から「目をつぶっても弾けるのが最終地点」と言われていて。練習では棹に目盛りを付けて、見ながら弾いていたのを、撮影直前に「取ろう」となりました。「できるかな?」と思ったんですけど、体が覚えていて、意外と見なくても弾けました。逆に、目を閉じたほうが音に集中できたので、練習しておいて良かったです。

思いが言葉で伝わらないもどかしさはわかります

越谷オサムのベストセラー小説を、『ウルトラミラクルラブストーリー』などで知られる横浜聡子監督が映画化した『いとみち』。弘前市の高校に通う相馬いと(駒井)は強い津軽訛りにコンプレックスを持ち、話すことが苦手で友人も少ない。母親を幼い頃に亡くし、民俗学者の父・耕一(豊川悦司)と祖母のハツヱ(西川洋子)と3人暮らしで、中学時代には三味線コンクールで入賞している。もやもやした日々の中で意を決し、青森市のメイド珈琲店でアルバイトを始めた。

――蓮さんは青森出身でも、いとみたいに田舎の子っぽくはないですよね。

駒井 監督とも最初「東京に住んで7年経っていると垢抜けて、青森の子という感じが出るかな?」と話してました。でも、衣装や津軽弁で形から昔に戻していった感じです。

――傍で見る分には、蓮さんはデビューしたときから、地方感はそんなになかった気がします。

駒井 本当ですか? 周りからはよく「田舎っぽい」と言われてました(笑)。同年代の子たちと比べたら、服とかも今見ると「わーっ……」という感じで、ちょっと恥ずかしいです。

――いとはそんな昔の自分を反映させた感じですか?

駒井 青森で暮らしている感覚は昔の自分を思い起こした部分はありましたけど、いとの役は自分というより、横浜監督を見て参考にしました。私は勝手に監督=いとだと思っていて。

――どんなところが?

駒井 監督が何か伝えたいことがあるときは、私もわかるんです。でも、それをうまく言葉で表現できないところがあって、いとに似ているなと。

――蓮さんはたくさんしゃべりますもんね(笑)。

駒井 結構しゃべります(笑)。そういう意味では、いととは違うかもしれません。でも、思っていることをうまく伝えられないもどかしさは、私にもあります。それが出たのがお父さんとのケンカのシーンで、「こういう感覚はわかるな」と思いました。

――実際にお父さんとケンカしたこともあるんですか?

駒井 全然あります。言葉で言っても伝わらなくて、「何でだろう? どうしたらいいんだろう?」と葛藤がありました。

「私も泣かない!」と意地を見せました

――いとは主人公ですけど口数は少なくて、表情や空気感で伝える演技が必要でした?

駒井 本当にそうでした。台詞を言わないで、何かを見つめていたり。歩いているシーンがすごく多くて、1日中、歩いて電車に乗るだけの撮影もありました。同じところを何回も歩いて、その日は本当にキツかったです。いとは特徴のある役なので、歩き方にも他の人と違う雰囲気を出したくて。ちょっとやりすぎて、監督に「違う」と言われながら、微調整して何回も繰り返しました。

――歩き方に心情も反映させたり?

駒井 そうですね。あと、体の使い方には人の個性が出るので、いとはどんな歩き方をするのか。ダサさというか、不安定でバランスが取れてない感じにしたかったんです。かと言って、脚が突っかかったりするのも違うと、監督の中で線引きがあって。階段を上るときも「かわいく見えないように」と注意されたり、難しいところではありました。

――いとは幼稚園の頃にお母さんを亡くしてから、「絶対泣がねえって思ってたっきゃ、いつの間にか涙は出なぐなってしまいました」というところが、軸になっているようにも見えました。

駒井 頑固でじょっぱりで、泣きたいけど泣けないところは、確かにいとの根っこの部分ではありますね。いとが失敗したりすると、私としては涙が出そうになるんです。でも、いとは泣かない。どう気持ちを持っていくか、現場で考えましたし、「私も泣かない!」と意地を見せました(笑)。

――役とシンクロしたんですね。それだけに、終盤でメイド珈琲店の先輩の幸子さんに髪を梳いてもらって涙を流すところは、感動的でした。

駒井 それまで抑えつけていたからこそ、涙は自然に出ました。いとは「お母さんがいなくてかわいそう」と思われたくなくて、口には出さなかったけど、お母さんとの関わりをすごく求めていたことが、わかるシーンだったと思います。

SNSをまったく見なくなりました

――単独では初の主演ということも含め、撮影で悩んだところもありましたか?

駒井 もう常に悩んでいました(笑)。『名前』でW主演させていただいたときは、津田(寛治)さんに頼ればいいと、甘えがちょっとあったんです。でも、いくら年齢が下でも単独で主演となると、どういうふうにしたらいいのか。自分が今までご一緒した中でも、主演でいつも笑顔の方も、パッと変わる方もいらっしゃって、いろいろだったので、最初はすごく考えました。でも最終的には、私は周りに頼りまくる主演でしたね(笑)。

――あえて、そうしたんですか?

駒井 1人で作るものではないし、主演でずっと現場にいられるからこそ、いろいろなスタッフさんと関われるので。たくさんお話をして、アイデアやアドバイスをいただきながら、撮影しました。そういう意味で、助けられて支えられていました。

――本物のメイド喫茶に行ったことはありました?

駒井 なかったです。他のメイド役の(黒川)芽以さんと(横田)真悠ちゃんは、秋葉原のメイド喫茶に見学に行かれたみたいですけど、私はあえて行かなくて。

――いとは右も左もわからない感じの役でしたからね。

駒井 芽以さんと真悠ちゃんが学んできたメイドのあいさつを目の前で見るとカッコ良くて、私も家で「萌え萌えキュン」の練習をするシーンは楽しかったです(笑)。

――いとがメイド珈琲店でのバイトを始めたように、蓮さんも自分を変えるために何かをしたことはありますか?

駒井 携帯を開いて、クセのように他の人のSNSを見ていたのが、まったく見なくなりました。今ってネットからいろいろな情報が、一気に入ってくるじゃないですか。それはいいことでもありますけど、要らない情報にたくさん触れるのは損だと思ったんです。携帯を投げ捨てたくなったこともあるので(笑)。不要な情報でストレスを抱えるなら、普段から触れる情報の数を減らして、その分、楽しいことをするようにしました。

当たり前に過ごせる幸せを実感しました

――いとの台詞は少なかった中で、他の登場人物の言葉で響いたものはありました?

駒井 いっぱいありました。いとがお店でお客さんにセクハラを受けて、「わぁが悪いんで」と言ったときに、芽以さんが台詞で「そういうことを言ったら、みんなも傷つく」と言うんですね。私も「自分に悪いところがあったかな」と考えがちなんです。でも、それは周りの人の誇りを傷つけることにもなるんだと、ハッとしました。

――メイド珈琲店で常連のお客さんが「みんな不確かだ。生きるってそういうことだべ」と言う台詞は、監督がコロナ禍を受けて付け足したそうですね。

駒井 私も自粛中に「当たり前は一瞬で消えるものなんだ」と思いました。当たり前に過ごすことが一番の幸せだったのが、不意に奪われてしまって、ありがたみがよりわかって。『いとみち』の撮影ができなかったこともそうですし、だからこそ良い作品にしなきゃいけないという気持ちになりました。

――仕事への取り組み方が変わったりも?

駒井 自粛中に自分で動画を撮ることが多かったんです。オーディション用やキャンペーン用に自分で撮影すると、明かりや音質も大事で、動画を1本撮るのがどれだけ大変か学びました。映画だったら、照明とかセットとかいろいろなものが組み合わさって、ひとつの作品になるので、本当にすごいことなんだと実感しました。

悩んでいても勇気を持ってトライしようと

――完成した『いとみち』を試写で観て、どんなことを感じました?

駒井 現場ではモニターをほぼ観てなくて、監督と話して「こういうふうになったらいいね」というものを積み重ねました。それがどうなったかと思って観たら、自分がイメージしていた通りのいとになっていました。

――特に練ったシーンというと?

駒井 お父さんとケンカするシーンは本当に悩みました。撮る前は監督も豊川さんも「これは違くない? どうだろう?」と言っていたんです。立ち止まる位置とかを決めて、何回も繰り返して、やっとできた感じでした。

――いとは「自分を蔑むのはやめたら?」と言われたりしていましたが、蓮さんが客観的に映画を観て、いとに掛けたくなった言葉はありますか?

駒井 「自分を信じて」と言ってあげたいですね。自分を削れば周りが幸せになるという考え方は良くないなと思ったので。私もそう考える傾向があって、いとにも自分にも言いたいです。「自分が幸せになったら、周りも幸せになるよ」と。

――蓮さんがこの作品に主演して、自分が変わったと思う面もありました?

駒井 勇気を持ってトライしてみる、ということですかね。「このシーン、どうしよう?」となったとき、監督から「とりあえずやってみよう」というひと言があって、いろいろなパターンを試してみたんです。方針がガッチリ決まってなかったり、どうするか悩んでいても、とりあえず飛び込んでみるやり方は、すごく勉強になりました。

写真はすべて映画『いとみち』より (C)2021『いとみち』製作委員会
写真はすべて映画『いとみち』より (C)2021『いとみち』製作委員会

Profile

駒井蓮(こまい・れん)

2000年12月2日生まれ、青森県出身。

2014年にCMでデビューし、2016年に『セーラー服と機関銃-卒業-』で映画に初出演。主な出演作は、ドラマ『キャリア~掟破りの警察署長~』、『先に生まれただけの僕』、『荒神』、『受験ゾンビ』、映画『心に吹く風』、『名前』、『町田くんの世界』、アニメーション映画『音楽』、舞台『奇子』、『地球防衛軍 苦情処理係』など。

『いとみち』

監督・脚本/横浜聡子 原作/越谷オサム

6月18日より青森先行上映、6月25日より全国公開。

公式HP

(C)2021『いとみち』製作委員会
(C)2021『いとみち』製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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