試合に出るメンバーと、チームの雰囲気を作るメンバー外。両者の融合で生まれるものは?
いかにモチベーションを高めるか
部員数が多い学校にとって、メンバー外のモチベーションをどう高めるかは、大きなテーマであると聞く。3学年で100人以上いれば、8割をメンバー外が占めることになり、多数派がチームの雰囲気を作るところもあるからだ。メンバー外が下を向かないよう、心を砕いている指導者は多い。
1つの方策が、A、Bの2チーム編成にすることだ。BもAと同じくらい練習試合を組み、試合に出られるチャンスを作っている。試合に出ることは、選手にとって最大の喜びでもある。そして、「B戦」で結果を出した選手をAチームに上げるなど、チーム内競争につなげている。
3チーム編成にしているところもある。1999年と2001年の2度、夏の甲子園に出場した都立城東高だ。3年生が引退し、部員数が50人程度になっても、練習試合では3チームに分かれる(コロナ禍になってからは、2学年の時は2チームにしている)。全員に出場機会が与えられ、メンバーに入れるかどうかは、その結果次第。たとえ叶わなくても、チャンスが平等にあるので、選手は納得できるだろう。
レギュラークラスを優先することなく、夏の大会前まで全員同じ練習をさせているのが、日大三島高の永田裕治監督だ。甲子園で春・夏通算で23勝を挙げ、02年のセンバツで優勝に導いた報徳学園高の監督時代から、このやり方で指導している。侍ジャパンU18の監督も務めた永田監督は「遠回りかもしれませんが、レギュラーもベンチ外も心ひとつにしないと、チームは強くなれない」と言う。
例年、3学年で120人以上の大所帯になる花咲徳栄高では、大学野球のように「学生コーチ」がいる。メンバーに入るのは実力的に厳しいが、指導者を志望している部員に、この役割を担わせているのだ。岩井隆監督は学生コーチにある程度の権限を持たせる分、選手以上に厳しく接し、指導者になるための経験を積ませている。
「大人」である大学生の難しさ
高校以上に、メンバー外の選手がモチベーションを保ちにくいのが大学のようだ。4学年で150人いるチームは珍しくなく、ベンチに入れない選手のほうが、入れる選手よりもはるかに多いからだ。もちろん、そういう中でも努力を重ね、4年生でリーグ戦出場を果たす「苦労人」はいる。
だが、大学生ともなると「大人」で、どうしても現実が見えてしまう。また、高校時代よりも自由な時間があり、そこで野球に重きを置いていた価値観が変わることもある。将来のこと、就職のことも考えなければならず、特に(3年生以上の)上級生になってなお、メンバー外でモチベーションを保つのはかなり難しいことなのだ。
プライドが邪魔することもある。例えば、リーグ戦の応援スタンド。自チームが試合をしているのに、ずっとスマホに目を落とし、心ここにあらずという部員がいる。高校野球の応援席ではまず見られない光景だ。大学で野球を続ける選手はそのほとんどが、高校時代はグラウンドで躍動していた。甲子園のスターだった選手もいる。「スタンドにいる自分を受け入れられず、不毛の時期を過ごしてしまった」という話も聞く。
「一体感」が勝利を後押しする
こうしたことから、大学ではメンバーとメンバー外の融合を実現するのも、ハードルが高いようだ。それでも、両者のまとまりは、目に見えない大きな力になる。
象徴的な話がある。コロナ禍で8月に行われた、2020年の東京六大学春のリーグ戦でのことだ。早稲田大学の主将だった早川隆久(当時4年、現・東北楽天イーグルス)は、優勝の可能性がなくなった敗れた試合の後、こう言ってメンバー外の選手に詫びた。
「出ている選手がこんな試合をしたら、出られない選手に申し訳が立たない」
これには続きがあった。その年の秋のリーグ戦、慶應義塾大学との2回戦で優勝を引き寄せる劇的な逆転2ランを放った蛭間拓哉(当時2年、現・埼玉西武ライオンズ)は、メンバー外の先輩への感謝を口にした。
「ベンチに入れなくても献身的にサポートしてくれた4年生のために打ちたかった」
メンバーとメンバー外の絆が、確かにあったのだ。
間もなく春のセンバツが始まる。試合の行方を握るのは、グラウンドでプレーしている選手なのは間違いないが、スタンドで応援している選手との一体感も、勝利を後押ししてくれるはずだ。