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氷川きよし氏「目も見えない耳も聞こえない」愛犬と長年暮らす 獣医師が感じた“すごみ”

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
写真の毛色を「ブルーマール」「ダップル」といいます。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

氷川きよし「目も見えない耳も聞こえない」愛犬をハグ 優しい表情にコメント殺到を読んで、衝撃を受けました。

インスタグラムより@hikawa_kiyoshi_official
インスタグラムより@hikawa_kiyoshi_official

この犬をハグされているとき、氷川さんは崇高な顔をされていますね。私は、彼のことをあまり知らないので、詳細はわかりません。ネットでわかる程度の情報しかありませんが、目も見えない耳も聞えない子と実際に一緒に暮らすことは、そう簡単ではありません。目や耳に障害がある子たちの暮らし方やこの障害の原因を一緒に考えていきましょう。

目が見えない

筆者は、氷川さんと同じミニチュア・ダックスフンド(名前はラッキー)と暮らしています。現在は17歳で、16歳ごろから、うちのラッキーも目が見えなくなってきました。ある日、室内で何も障害物がないのに、立ち止まって怖がるのです。目の前に誰かが立ちはだかっているように。ラッキーの視覚が奪われている事実がわかったとき、私はただ、ただ可哀想で、なすすべもなく立ち尽くしてしまいました。

人だと「目が見えない」ということをいいます。犬の場合は、いわないので飼い主が察してあげないといけないのです。以下のような症状があります。

・視線が合わない。

・アイコンタクトができない。

・物に当たる。

・散歩中に溝に落ちる。

・目の前に、フードがあっても気がつかない。

・何もないのに、障害物があるように感じうずくまる。

・短頭種の犬(シーズ、パグ、フレンチブルなど)は、目にものが刺さるなどの怪我をする。

耳が聞こえない

人なら聴覚テストをして、音がなった方の手をあげてください、とできますが、犬の場合はそれができません。それではどうして気がつくのか。以下です。

・音がした方に向かない。

・大きな音を立てても平気。

・名前を呼んでも反応がない。

・飼い主が帰宅しても気がつかず、寝ている。

このようなことがあれば、耳が聞こえていない可能性が高いです。

氷川さんの愛犬ココアちゃんは14歳という高齢

インスタグラムより@hikawa_kiyoshi_official
インスタグラムより@hikawa_kiyoshi_official

 

(右がココアちゃんで目が白っぽくなっていますね)

先天的な疾患、目も見えず耳も聞こえない子は、やはり短命だといわれています。でも、氷川さんは、そんなココアちゃんを14歳まで育てあげています。なかなかできることではありません。このような子は、やはり弱いです。きめ細やかな配慮がないと、長生きはしません。きっと仕事で忙しいのに、大切にされているのでしょうね。テレビを見ていて、愛犬家といわれる人でも若い犬しか飼っていない人は、本当にそうなの?と疑ってしまう面もあります。でも、氷川さんは、ハンディを持っている子を高齢になってもしっかり育てられています。

なぜ、そのような子がいるのか

ミニチュア・ダックスフンドにおいては、このような目も耳も不自由ということが他の犬より多く見られています。これは、遺伝子の疾患なのです。「ダップル」や「ブルーマール」という白の混じった毛色(大理石模様)や色の薄い子がなりやすいとされています。

原因(マール遺伝子)

マール遺伝子というものがあれば、そのようになるのがわかってきました。

マール遺伝子があると、メラニン細胞が胎生期に正常量ないのです。メラニン細胞は、目や耳の細胞に関係があるのです。

・難聴。

・網膜へ影響を及ぼす視覚障害。

・死産になる確率が高くなります。

マール遺伝子というと難しいのですが、獣医師の臨床現場では「白い毛で青白い目を持っている猫」が来ると、どこかに黒い毛が生えていないか、探します(黒い毛が少しでもあれば、障害は問題ないです)。それは、難聴や視覚障害を持っている可能性があるからです。このような子猫の場合は、鳴けない子もいて、コミュニケーションを取りにくく、飼い主にそのように注意することを伝えます。

氷川さんのココアちゃんは、写真で見る限り、黒の毛色ではなく、薄い茶なので、つまりメラニン細胞が少なく、マール遺伝子を持っているのではないか、と推測します。

目も見えない耳も聞こえない子との暮らし方

マール遺伝子を持っている犬や猫が、市場に出回っているので、一緒に暮らしているうちに、愛犬・愛猫の目が見えない、耳も聞こえないということがあるかもしれません(もちろん、他の疾患や加齢に伴いそうなる子もいます)。いまのところ治療方法はないので、以下のことに気をつけてあげてください。

・模様替えをしない。

 頭の中で室内の設計図があるのに、よく模様替えされると、修正するのが難しい。

・段差のない空間を作る。

 室内のコードなどに引っかかることもあるので、コードなどもないように。

・散歩のとき、溝に落ちないよう注意する。

・食事をちゃんと取れているか、注意深く観察する。

・水がちゃんと取れているかも確認する。

・目だけ見えない子は、声をかけながら近づく。

・耳が聞こえない子は、アイコンタクトをしてから触れる。

・耳も目も障害がある場合は、触れあうことを大切にする。

このような障害がある子は、やはり病気になりやすいので、少し具合が悪い子は、様子を見ないですぐに動物病院に連れて行ってあげてくださいね。

まとめ

マール遺伝子は、なにもミニチュア・ダックスフンドに限ったことではなく、ブルーマールと呼ばれる毛色を持つ犬種全てにこの遺伝子が存在します(シェットランド・シープドッグ、チワワ、ポメラニアンなど)。珍しい毛色は、そのような危険を孕んでいるのです。毛色の白っぽい子たちが、目や耳の疾患を持っていることが一般的になり、そのような遺伝子を持っている子を繁殖させないように。いまいる子たちは、氷川さんのように愛情一杯に育てていただきたいものです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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