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誰がための個人情報保護なのか?

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

ベネッセの個人情報漏洩問題で、マクドナルドの社長(元)が謝罪しているという光景を見て不思議に思った。原田泳幸(65)氏は、2014年6月21日に就任したばかりだったからだ。

プロの経営者として、招聘された原田氏の最初の仕事は「2,000万件」に及ぶ情報漏えいの火消し役である。早速「200億円」という原資を使って事態を回避するという策を発表した。しかし、単純に2000万件で割ると、1件あたり、1,000円という金額になる。半額としても500円相当の謝罪費用に当てられるのだろう。しかし、500円をもらったところで安心できるものでもない。

再発防止策などを、経産省へ報告するなどのニュースに原田氏の顔が見られた。しかしだ。個人情報漏洩がいつも問題になるが、ボクはどこか視点がおかしいと思う。今回のようにSIERの社員が名簿業者への販売目的となると、100%の防止策など存在しないも同然だ。

むしろ、名簿業者や、名簿業者を通じて、リストを購入したジャストシステムECC側に行政指導すべきではないだろうか?

又、名簿業者も、外部監理組織の入手先などの報告義務を設けるなどすべきではないか?

LINEでは、パスワード乗っ取りを避けるために、パスワードを変えると無料スタンプを貰えるキャンペーンを展開している。パスワードを変えると乗っ取りは本当になくなるのだろうか?

個人情報は漏洩するもの。情報は自由になりたがるもの

個人情報の「需要」がある限り、個人情報漏洩は、なくなるワケがないのだ。「需要」そのものを、「白と黒」の棒引きを明確にしなければならないのではないだろうか?そうしなければ、不必要なセキュリティの強化ばかりが強要され、非生産なコストばかりを増大させる。

「オレオレ詐欺」の原因のひとつに、被害者のリスト売買活用の背景がある。「オレオレ詐欺」は何度も同じ人が騙されるケースがあるからだ。警察、銀行、家族などが対応すべきだったが、銀行振込を郵送のメール便を活用したり、「子供を身ごもってしまった詐欺」では、家族にも内緒で…という詐欺グループが巧みなシナリオを用意している。

これらのシナリオに追いつけていない「法整備」こそが問題なのである。また、リストを売買することに対しての法制度のセキュリティレイヤーこそを上げるべきではないだろうか?

そして「情報漏洩」のみを問題視する視点こそが真の問題解決にはつながってはいない。個人情報の「需要」があり活用する側をもっと律するべきだと思う。個人情報が漏洩しただけでは、何も実害はないからだ。活用されてはじめて問題が発生する。

個人情報が漏洩していた昭和の時代

そもそも、個人情報はおおらかな時代では、何も問題は起きていなかった。

昭和の時代には、家の表札に住所と家族の氏名が堂々と掲げられていた。学校ではクラスの連絡網で電話番号が掲示されていた。NTTの電話帳には個人名が有名人でさえ掲載されていたのどかな時代だった。現在の都内のマンションでは部屋番号のみで誰が隣に住んでいるのかさえ、まったくわからないアノニマスな匿名状態だ。

DMの配送料金が安くなり、電子メールでのショップメルマガがほぼ無料で無尽蔵に送れるようになったことも原因だ。電話代もカケホーダイプランで営業電話が頻繁にかかってくる。どれも、コストに見合うからリスト商売がなくならないのだ。

ビッグデータ、クラウド時代の「個体」情報漏えい問題

ビッグデータ時代。今度は、個人名とはヒモづけされないが、行動や購買履歴とヒモづけられ、プログラムから連絡が自動でやってくる時代になってきた。便利さと引き換えに、行動はすべてクラウド上で監視されているだけでなく、同じ行動を起こす人々の未来までも「予測」されているのだ。

「特定されない個人行動情報の共有」というのが、「メガネや時計」を使ってクラウドで監理される時代を象徴している。自分にとって心地よい情報が、常にタレ流されてくるのだ。人は、便利で安くて心地よいものには、簡単に流されてしまう。

そうやって人は、知らず知らず、個人の情報を自ら安売りセールしてしまう時代なのだ。やはり、この状況は、情報を集約し活用するプラットフォーム側の活用に関しての「倫理」が問われる時代になることだろう。

おせっかいな未来の「広告」

唾液のDNAだけで簡単に親子がわかる時代でもある。DNA鑑定で実の親子関係が証明された時、育ての親は他人になってしまうのか?

今後のヘルスケアアプリでダイエットしていたら、唾液を分析した結果「親子ではない可能性がありますがDNAチェックしますか? YES または NO」のアラートが現れ、DNA鑑定の業者のリストがずらりと現れるだろう。

婚活サイトでは、DNA鑑定では、あなたと遠いDNAを持っている異性ですので、未来のベイビーは強くなりますと「唾液マッチング」でパートナーを推薦しはじめる…。

あなたの行動から、ガンを発症する人の行動と似た行動が分析されました…。「飲み物は、こちらのブランドにスイッチすることを強くオススメします…」。

これからのテクノロジーの進化には、常に「倫理問題」が深くつきまとうことだろう。個人を特定しなくても、クラウド側が「個体」として認識していれば、個人情報漏洩以上の不都合を無限大に生み出すことだろう。漏洩に目を向けるのではなく、需要と活用する側に目を向けるべきだ。

自分自身で個人情報を操作しておく!

余談だが、ボクは家にカギをかけたことがない(笑)。今までの人生で、泥棒に入られた金額よりも、カギの交換代金の方が高くついたことに疑問を抱いたからだ。その代わり、壊れたウエブカメラをドアにつけている。それだけで十分に抑止力になっている。漏洩した個人情報を活用しにくくなる抑止力を考えてみるのもひとつの問題だろう。そのためには、単純な申し込みに本当の自分名前を使わないのも手のひとつだ。一文字違いの文字であれば、郵便物も必ず届く。

「神田敏昌(トシマサ)」や「神田昌敏(マサトシ)」という一文字違いで、職業選択を医者で、年収を2000万以上を選択するだけで、いろんなDMがやってくるようになった。かつては高級外車の発売日にマンションまで新車がお迎えが来たり、桐の箱に入ったマンション販売のご案内が宅配便で届いたこともあった。「ポイズン・ピル(毒薬)」の入った個人情報をバラまいたところ、かなり高価でリストが売買されたようだ。一番の問題は、ポストに貯まる高価なDMのクズの廃棄だった(笑)

単なるアンケートにまともに自分の本名を使わない事だ。単なる購読申し込みには、「本名」を使わないだけで、かなり個人情報漏洩リスクはなくなるのではないだろうか? 個人情報は必ず漏洩するものだから、あなたが正直に本名を使う必要はどこにもないはずだ。パスワード同様に、どうでもいいものための仮の名前を最低2つくらいは用意しておこう!

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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