生理政策の先進国・台湾にある世界唯一の「月経博物館」が面白かった
コロナ禍で「生理の貧困」が注目を集め、学校や大学のトイレへの生理用品の設置、民間企業などによる生理教育など、ここ数年で「生理」への話題は格段に増えるようになった。
2023年12月19日には、公立高校入試の受験日と生理(月経)が重なった生徒も、「追試は可能」とする通知を文部科学省が全国の都道府県などに出すなど、「生理休暇」への取り組みも進みつつある。
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一方、労働者は、労働基準法第68条「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求した時は、その者を生理日に就業させてはならない」によって生理休暇が認められているものの、実際の取得率は非常に低い。
厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」によると、女性労働者のうち、令和2年度中に生理休暇を請求した人の割合は0.9%。生理休暇の請求者がいた事業所の割合は3.3%だけという結果になっている。
その理由は、有給ではないこと、頻繁に休むと出世に関わるなど、様々な理由が挙げられるが、異性の上司だと生理休暇を申請しづらい、生理休暇という名称によって「恥ずかしい、生理であることを知られたくない」といった、心理的ハードルの高さも指摘されている。
それに対し、企業だけでなく、小学校・中学校・高校・大学でも生理休暇が導入されている台湾では、生理休暇が日常的に利用されている。
台湾の新北市政府人事処が行った調査では、2015〜19年の5年間で約6,000人の職員のうち毎年平均2,500人が何らかの形で生理休暇を申請したという。
つまり、約41%が生理休暇を利用していることになる。
学校での生理休暇取得に関する統計データはないそうだが、若い世代に話を聞くと、周りで利用している人は多いという。
そんな台湾で、「生理の貧困」や「生理のタブー視」、「生理教育の変化」、「性差の権利保障」といった問題に取り組む若者団体「小紅帽 With Red」(赤ずきん)が2022年にオープンした、世界で唯一の「月経博物館The Red House Period Museum」が非常に面白かったので、紹介したい。
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世界で唯一の「月経博物館」とは?
台湾・台北市。若者が多く集まる地域ではなく、伝統的な市場などが並ぶ路地の一角に、2階建ての小さな博物館、「小紅厝月經博物館」が設置されている。
生理休暇など、一定進んでいる部分はあるものの、まだまだ生理に関する無知や偏見が台湾でもあると感じ、普通の人が気軽に学べるように、築60年の建物をリフォームし、市場の中に作ったという。
「小紅厝月經博物館」は、生理について学ぶことができる場所として、生理が起きる仕組み、生理の貧困の状況、生理にまつわるスティグマ、生理政策に関する国内外の動向、各種生理用品の使い方、生理教育の教材など、様々な角度から生理を理解できるコンテンツが揃っている。
こうした紹介だけを聞くと、真面目で堅い場所とイメージされるかもしれないが、見せ方など至るところに様々な工夫が施されており、気軽に学べる場所となっている。
2階では、ワークショップをできる空間も用意されており、実際、小学生から高齢者まで、生理教育に関するワークショップを開いているという。
また来場者の約4割は男性で、2割ぐらいが海外からの訪問客であるなど、様々な人が訪れる。
その他にも様々なコンテンツが用意されているが、ぜひ現地を訪れて見てもらいたい。
14歳から生理に関する活動をスタート
この非常にハイセンスで、新しい「月経博物館」を作ったのは、現在25歳のヴィヴィ・リンさん(林薇、Vivi Lin)。
初めて生理が来た14歳の頃から活動しているという、台湾を代表する若きリーダーの一人だ。
なぜ生理の話をタブー視するのか、最初は単純な好奇心からだったというが、親からも公の場所でそうしたことを話してはダメだと言われ、自分で調べたら、生理に関する無知や偏見、生理の貧困について知った。
世界で初めて生理用品無償化の法律を作ったスコットランドに留学中の2019年、「小紅帽 With Red」を立ち上げ、生理用品の提供や、生理教育などを行ってきた。
2021年には、イギリスの故・ダイアナ妃が設立し世界をよりよい場所に変えようと人道的活動・社会貢献する次世代リーダーに贈られる「ダイアナ・アワード(Diana Awards)」を受賞している。
政策提言も積極的に行い、2023年からは台湾全国の各学校で、生理用品の無償提供が始まることになった。
また、Googleマップと連携し、台湾全域における、生理用品を無償提供する店舗や施設の場所などをまとめている。
さらに、子どもや動物に優しいお店を「〜フレンドリー」というように、トイレに生理用品を設置しているお店に対し、新しく「月経フレンドリー」という認証が地方自治体によって作られるなど、生理について配慮する考え方は着実に浸透している。
そして、2022年に「小紅厝月經博物館」を設置し、生理について気軽に学べる空間を作った。
現在は、8名の常勤メンバーがいるが、ヴィヴィさんはスコットランドの大学に留学中で、今回は、台湾総統選に合わせて帰国していたタイミングに運良く話を聞くことができた。
日本でも少しずつ、「生理」の話題をタブー視することが減りつつあるが、それでも、能登半島地震において、「被災地で生理用品はぜいたく品」という意見が散見され、配布の是非が議論になるぐらい、社会の理解は乏しい。
根本的には義務教育課程で十分に生理教育を行なっていないことが大きいが(女性だけでなく男性にも)、「月経博物館」のように、学校を卒業してからも、気軽に学べ、話し合える空間は非常に貴重であり、意義が大きい。
特によくある「博物館」のように、堅苦しい空間ではなく、ユーモアさとコンテンツの充実度合いには驚かされるばかりであり、他のテーマにおいても、非常に参考になると感じた訪問であった。