台湾・ひまわり運動のリーダーや参加者が語る、ひまわり運動が若者に与えた影響とは?【台湾総統選】
2024年は重要な選挙が立て続けに行われる「選挙イヤー」と言われるが、その最初となる台湾の総選挙が1月13日に行われた。
結果は、総統選は与党・民進党の勝利となり、蔡英文総統路線を引き継ぐ、頼清徳副総統が次期総統になることが決まった。1996年に総統直接選挙が始まってから、同じ政党が三期続けて勝つのは初めてとなる。
一方、日本の国会に相当する立法院では、第一党が国民党(52議席)となり、民進党(51議席)を上回った。ただ、議席数113の過半数を取った政党は存在せず、5議席から8議席へと躍進した、第3政党である民衆党がキャスティングボートを握ることになる。
投票率は、2020年の74.9%から少し下がって71.86%となった。投票率だけを見れば、ヨーロッパにやや見劣りをするかもしれない。
しかし、選挙への熱量に関しては、台湾の方が熱いかもしれない。それが、現地を視察した筆者の感想だ。
それも選挙集会には若者が多く集まる。
なぜ台湾の若者は選挙に熱狂するのか。ひまわり運動のリーダーをはじめ、様々な若者団体にインタビューした内容も含めて、現地で感じたことを紹介したい。
音楽ライブのような盛り上がりを見せる台湾選挙
まるで、国民的アーティストの野外ライブ。台湾の選挙集会に足を運ぶと、そんな印象を持つ。
台湾では選挙直前の10日間、毎日各地で集会が開かれる。そこでは、政治家の演説だけでなく、様々なアーティストが音楽ライブやダンスなどを行う。周辺では売店が置かれ、政党のグッズが売られる。
筆者が訪れた新北市の民進党の集会では、大きな公園が人でぎっしり埋まり、野外ライブかのような盛り上がりを見せていた。人数は主催者発表で10万人。それが毎日様々な場所で開かれる。
投開票日前日には、若者の人気を集める民衆党の集会を訪れると、若者のカップルや小さい子どもを連れた家族がコールをしながら、政党を応援していた。会場に入り切ることができず、路上にまで多くの人が溢れていたが、なんと、35万人が集まったという。
さらに、総統候補同士による、テレビの公開討論会は一度開かれるが、その視聴率は32%。紅白と変わらないぐらい、国民が政治の討論番組を見る。日本では想像できない。
台湾では期日前投票や在外投票がなく、投開票日当日に、戸籍がある場所でしか投票ができない。そのため、海外に留学・在住している学生や社会人はわざわざ投票のために帰国してくる。都市部に住んでいる人は投票のために地元に帰る。
そうした高いハードルがありながらも、投票率は70%を超える。
「民主主義国家で投票できるのは特権」
なぜそこまでして、投票に行くのか。
ある大学生に話を聞くと、「台湾は民主主義を得るために、色々なことがあったので、投票に行くのは自然なこと。自分の投票権を行使したいから選挙に行く」という。
台湾では、1947年から1987年まで、戒厳令が敷かれ、反体制派に対する政治的弾圧が行われ、多くの国民が投獄・処刑された、苦い歴史を持つ(白色テロと呼ばれる)。そのため、台湾にとって、自由に言論活動ができ、選挙が行われるというのは特別なことなのである。
「民主主義国家で投票できるのは特権。自分は台湾の一部で、投票は参加する手段なので投票したい。政治と生活は密接に繋がっており、例えば今回、ある総統候補は中国人の就業緩和をしようとしており、実現すれば自分たちの生活にも大きな影響を与える。」(同じ大学生)
台湾で主権者教育を行ったり、18歳公民権(選挙権+被選挙権)の実現を目指す「台湾青年民主協会(Taiwan Youth Democratic Association、TYDA)」は、政治に関心がないと、政治家がみんな一緒に見えるため、若者向けに注力している議員を可視化したり、直接若者と政治家が議論する機会を提供している。
「政治は自分と縁遠い印象を受けるかもしれないが、自分の生活と直結している。投票は長期的なプロジェクトなので、投票した段階では変化がみられないかもしれないが、長い目で見たら良い変化を起こせる。」(代表の張さん)
TYDAのインスタグラムは約29万人ものフォロワーがいるが、そのコツは、青少年や学生が関心のあるトピックを投稿し、定期的に政策アンケートを取ったりすることで、自分が参加することで政策に影響を与えられると感じて、見る人が増えているという。
最近だと、学校への通学時間の変更の是非について(台湾では自習のために朝7時30分までに登校しないといけない)アンケートを実施したりしている。
他テーマとの連携は「当たり前」
台湾では、選挙だけでなく、日常的な社会運動への参加も積極的だ。
脱原発や気候変動の問題に対して社会運動を行っている「緑色公民行動連盟(GCAA)」は、数年に一度、大規模なデモ活動を通して、台湾の脱原発を推し進めてきた。
デモには5万人ほどが参加し、最も多い時は20万人が参加したという(2013年に第4原発の建設中止を求めてデモ行進)。
日本ではデモ活動に対して、ネガティブな印象が強く、やってもあまり変わらないという声もあるが、それに対しては、「デモ活動は政治家へのプレッシャーになるが、必ずしも結果だけを重視していない。デモをやること自体が目的でもある。デモをやれる自由を他の人にも見せるのが大事」と、民主主義社会において、自由に社会運動ができる重要性を語ってくれた。
また日本だとテーマ別で活動しているケースが多く、あまりテーマ間の連携ができていないが、台湾では他テーマとの連携は当たり前だという。
「台湾ではデモ活動をする際に、他テーマの活動を支援するのが当たり前になっている。GCAAには126のNGOが加盟しているが、教育、宗教、人権、労働関係など、様々な団体がお互いにサポートしている。台湾は民主化を重要視してきたが、同時に人権もセットで考えている。交通安全、LGBTQ、労働なども人権保障の一種。大元の理念が一緒なので、一緒に活動できる。」
ひまわり運動が若者に与えた影響
そして、台湾の若者の政治参加を考えるにあたって、「ひまわり運動」は欠かせない。
ひまわり運動とは、2014年3月、馬英九政権(当時)が進めた「中台サービス貿易協定案」に学生らが「中国にのみ込まれる」と反発して始まった学生による社会運動である。24日間にわたり、立法院を占拠して、批准手続きを止めた。
その後、政権交代に繋がるだけでなく、香港で民主化を求める大規模デモ「雨傘運動」など、世界中に大きな影響を与えた。
そのひまわり運動から約10年。当時の状況を知らない若者も増えてきたが、どのような影響を台湾の市民社会、特に若者にもたらしたのか。
ひまわり運動のリーダーであった林飛帆氏(1988年生まれ、現在は民進党の副秘書長=日本の副幹事長に相当)に質問すると、このように答えた。
「若い世代というのは、自分たちの親世代から、政治に関心がないと言われ続けてきました。10年前のあの出来事というのは、とても偶然のことだったと思っています。当時、若い人たちというのは、中国で働くようなことを考えていたり、自分自身のことに非常に近い問題でした。政治に関心を持ってもらうには、生活に近いイシューが出てくることが非常に重要だと思っています。」
医療従事者の立場でひまわり運動に関わっていた方は、ひまわり運動が台湾に与えた影響について、こう話す。
「一つは、政治にあまり関心のなかった人が、政府が何をしているのか、監視するようになり、投票に行く人も増えた。もう一つは、若者が政治に大きな影響を与えた初めての経験で、若者の意見は政治に反映されると感じるようになった。そこから、積極的に意見を言っていった方が良いと思うようになった。」
街頭で若者にインタビューをすると、ひまわり運動をきっかけに政治に関心を持つようになったという人は多く、当時の状況をリアルタイムで知らない高校生は、「ひまわり運動の経験はしていないけど、色々なドキュメンタリーや書籍などを見て、行動したら社会を変えられる可能性はあると感じている。運動する人たちはすごく勇敢で、尊敬している」という。
日本より10年早く若者政策を整備
とはいえ、台湾の若者に影響を与えたのは「ひまわり運動」だけではない。
台湾では、2000年代前半までは、高齢者や障害者の権利保障の団体がほとんどで、若者の権利保障を訴える声が弱かった。
その結果、子ども・若者は勉強だけをしておけば良いという雰囲気が強く、大きく4つの弊害が生じていたという。
①余暇の時間が少ない
②心身の健康
③金銭的な問題
④自主的な考えが抑圧されていた
そのため、若者の権利保障を推進するために、2003年に「台灣少年權益與福利促進聯盟(Taiwan Youth Rights and Welfare Promotion Alliance)」が設立され、福利保障権、文化権、健康発達権、公平教育権、社会参画権、労働権、という6つの権利を保障するための活動が推し進められた。
その後、児童(0-12歳)と青少年(13-18歳)の権利を横断的に保障する法律、「児童少年福利権益保障法」が2011年に作られ、青少年に影響を与える政策を通す時に、政府の会議に青少年が参加することが義務化されるようになった。
2014年には、「子どもの権利条約実施法」が制定され、学校内でも子どもの意見が尊重されるようになった。
台湾では日本と同様に、校則が厳しいが、この法律が作られたことで、校則を策定する時は生徒の声が聞かれるようになったという。
一方、日本では2023年4月にこども基本法が施行されたばかりであり、台湾は日本より10年早く、若者政策を整備してきたようだ。
このように、台湾では、市民主体の社会運動と若者政策、両方がきちんと発展してきており、それが高い投票結果にも繋がっている。
日本でも少しずつ発展してきているが、まだまだ足りず、やるべきことは多い。