大島真寿美の原作を、東日本大震災から10年後の物語にした理由。そして、菅田将暉に伝えたこと
高校2年生のときに制作した 8mm『0×0(ゼロカケルコトノゼロ)』がぴあフィルムフェスティバルに入選し、「天才少女の出現︕」と10代からその才能を高く評価された風間志織監督。
現在、風間監督が2000年代に発表した3作品「チョコリエッタ」「火星のカノン」「せかいのおわり」を上映する<チョコリエッタ 2021 リバイバル上映+風間志織監督特集>が開催中だ。
いわゆる旧作の上映になるが、おもしろいことにこの3作品、風間監督の先見の明とでもいおうか。
むしろ今の時代の方がリンクすることや今の方が切実に感じられるかもしれない点が多々。
新たな作品に出合うような新鮮さがいずれの作品にもあふれている。
ありきたりな言葉になるが、時代を経ても決して色褪せない。そんな映画を発表し続ける風間志織監督に訊く。(全三回)
物語の設定を2021年にした理由
まずは今回の<チョコリエッタ 2021 リバイバル上映+風間志織監督特集>のメイン作品となる2014年の映画「チョコリエッタ」の話から。
本作は、風間監督にとって初の原作もの。直木賞作家、大島真寿美の同名青春小説を、森川葵と菅田将暉の共演で映画化した。
そして、この小説を風間監督は、設定を原発事故から10年後の2021年に変更した。この理由をいま改めてこう語る。
「2003年に出版された原作は、1990年代ぐらいかなと感じるぐらいで、特に時代が明確にはされていない。
そういうことで、はじめに脚本にとりかかったのはたぶん2007年ぐらいだったんですけど、当時の設定で現代の子どもたちでいったんは書き上げていました。
ただ、なかなかそのあと、企画がうまく運ばなくて、しばらく寝かせてしまうことになった。
そうこうするうちに2011年3月11日という日になり、東日本大震災、そして原発事故が起きて。
直後、わたしは東京で暮らすひとりの子を持つ母親としていろいろと考え、映画どころではなかった。
でも、少し落ち着いたときに、いまこそこの映画は作るべきだと思ったんです。
というのも、この有事となったとき、本来つまびらかにして伝えなければならない大切なことが隠されるといったことが多々あって。
この未曽有の有事においてでさえ、国が信用できないことが露わになってしまった。
その現実を目の当たりにしたとき、残念ながらこれからさらに大変な世の中が予想される。
ひとりの大人として大変申し訳ないけど、子どもたちにいろいろなしわ寄せがいく可能性が高い。
また、多くの人が命を失い、その悲しみと向き合う遺された人々も多くいた。
そういうことを考えあわせたとき、不幸を抱えながら、その逆境を乗り越えて、なんとかサバイブしながら、立ち上がるような子どもの物語を描きたいと思ったんです。
それで考えると、『チェコリエッタ』の主人公・知世子は、これらのことをある意味、体現している人物というか。
まず、母親を不慮の事故で亡くした悲しみの傷が癒えていない人物である。
なんでもきれいごとで済まそうとする社会や周囲を信用できず、いら立ちを覚えている。
まさに当てはまる、それでいまこそ作る映画だと当時思ったんです。
それで、東日本大震災の影がまだない少し前の2010年を物語の始まりにして、震災から10年というひとつの節目になったとき、どういうことになっているのかを見据えようと想像して2021年の日本という設定にしました」
できればそうなってほしくなかった。だから、いますごく複雑な心境です
実際の2021年になった現在、2014年に公開された「チョコリエッタ」を改めてみると、いまの時代の空気にひじょうに近いものを感じてならない。
風間監督自身はどう感じているだろうか?
「安易に希望を示したくはありませんでした。
必要以上にネガティブにもしたくありませんでした。
で、厳しい見方をするわけですけど、こういう問題が起こりうるのではないかと、こうなってほしくはないなという思いを込めて描いたところがある。
それから10年が経って、『こうなってほしくない』と思ってわたしが描いたことよりも現実は、さらに悪い状況になってしまった。
たとえば10年前、本来ならば国民に知らせなければならないことが隠された。
それがいまは隠すどころか、その大きな嘘がまかり通るような状況になっている。
だから、もしかしたら作品としては先を見つめていて、いまの時代にもリンクしうる内容になっているかもしれない。
でも、わたしは当時はできればそうなってほしくなかった。だから、いますごく複雑な心境です」
クラスではじかれてしまう子たちの気持ちを大切に描こうとまず思いました
一方で、森川葵が演じる宮永知世子と、菅田将暉演じる、彼女の高校の映画研究部の先輩で浪人中の正岡正宗が繰り出す撮影の旅を通して、普遍的ともいうべき思春期のいら立ちや社会に対する絶望などが伝わってくる。
この思春期を描くことで大切にしたことはあったのだろうか?
「高校生が主役の映画を撮るとなって、自分が高校生のときのことを一生懸命思い出したんですね。
『あのころ、どうだったけ?』と。
記憶を辿ると、自分は周囲についていけない、クラスにもなじんでいるとはいえなかった。
で、知世子も正宗もそうなんですよね。
だから、そういう孤立とまではいわないけど、クラスではじかれてしまう子たちの気持ちを大切に描こうとまず思いました。
そのために何が必要かというとっていうか、やはり役者の力量で。
演技というより、知世子だったら彼女がどういう意識をもって普段行動しているのか、正宗だったらどういう意識で社会と向き合っているのかをきちんととらえていてほしかった。
そこで、菅田(将暉)くんには、正宗は世の中に抗う役だから、大人とか世界を信じられずに反抗する人物だと伝えた記憶があります。
知世子も同じような反抗心と反骨心がある人物なんですけど、森川さんに関しては、本人には失礼かもしれないけど、もうその時点で備わっていて(苦笑)。
そのまま出してもらえればよかったので、特になにも言わなかったと思います」
(※第二回に続く)
「チョコリエッタ 2021 リバイバル上映+風間志織監督特集」
12/18(土)~24日(金)まで横浜シネマリンにて上映中
場面写真はすべて(C)寿々福堂/アン・エンタテイメント
<イベント情報>
公開期間中、風間志織監督が連日登壇!
12/18日(土)17:30回上映後、クノ真季子さんの舞台挨拶、
12/24(金)17:30回上映後、渋川清彦さんの舞台挨拶が決定!
公式サイト → http://suzufukudo.com/news.html
2022年2月5日(土)~11日(金・祝)まで横浜シネマノヴェチェントにて、
<孤高の寡作家 風間志織監督特集>の開催決定!