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NHKの受信料。そういうものは海外にはあるの? (「NHKから国民を守る党」の騒動を見て)

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
パリにあるフランス・テレビジョンの拠点。(写真:ロイター/アフロ)

友達に「公共放送の受信料って、フランスにはあるの?」と聞かれたので、答えを書いてみたい。

まず、フランスにもNHKに相当する公共放送局がある。「フランス・テレビジョン」という組織である。

簡単に答えるのなら、受信料は「あるとも言えるし、ないとも言える」である。仕組みが違うのだ。

フランスには、「オーディオ・ビジュアル税」というものがある。よく「テレビ税」と言われるが、正式な別名は「公共オーディオ・ビジュアルの貢献金」という。

これはテレビをもっていると、全員払わなければならないものだ。

筆者は初めてフランスに留学したとき、借りた家にテレビがなかった。そこで日本に帰国する友達に、安く譲ってもらった。

フランス人に「そういう売買は、テレビ税から逃れられて、良いよ」と言われた。店で新しいテレビを買うと、書類にサインをさせられて、税務署から「税金払え」と来るようになるとのことだった。

でも、以前は比較的ゆるかったのだ(特に学生には税金はゆるい)。「民放しか見ないから払いたくない」からと払わないで済む方法は、色々あったと聞いている。今では住居税にしっかりと組み込まれていて、逃れられない。「公共オーディオ・ビジュアルの貢献金」なるものは、税金化している

住居税っていうのは、日本の住民税と同じで、地方税である(日本では「住税」で、一人ひとりに税金がかかる。フランスでは「住税」で世帯にかかる)。

デフォルトで「全員テレビを持っていることになっている」ので、全世帯に請求が来る

1世帯で1台持とうと100台持とうと、税金は同じだ。

もし持っていない場合、税務署に「テレビを持っていません」という申告をしなければならない。しかも、毎年しなくてはならないのだ。

ウソをついてばれると、1台につき150ユーロ(約1万8000円)の罰金をとられる。

それでは、「公共オーディオ・ビジュアルの貢献金」とは、いくら払うのか。

ずばり、1年間で139ユーロ(約1万7000円/フランス本土)、または89ユーロ(約1万700円/海外県)である。

NHKの受信料は、地上波のみの視聴で12カ月前払いをした場合、1万3990円(口座振替・クレジットカード利用)、または1万4545円(振込用紙での支払い)である。

どちらの国も、料金を「9」で止めている所が、涙ぐましい。国は違えど、人間考えることはみな同じですね!

フランスのほうが高いが、為替によって変わるので、なんとも言えない(今は比較的円高ユーロ安で、1ユーロ=120円で計算している)。

どちらの国も「139」・・・なんで?(笑)

もう一つ、フランスと日本の大きな違いを挙げておこう。

フランスの公共放送チャンネルには、コマーシャルがある。

税金化しているけどコマーシャルがある「公共」放送・・・。難しい。

ただ、コマーシャルは日本より少ない感じがするし、一個所にまとまっている傾向がある。

特に21時ごろから始まる約2時間のメイン番組など、いつまでたってもCMにならない。 ちょっとお茶を取りに行ったり、トイレに立ったりするタイミングが、なかなかやって来ない。つくりが映画感覚なんだと思う。こちらも、映画を見る心づもりで、見始める前にトイレに行っておいて、傍らにお茶とデザートを用意しておいたほうがいいくらいだ。

また、主要チャンネル7つのうち、3つがフランスの公共放送、1つが仏独共同のほぼ公共放送、1つはWOWOWみたいな有料チャンネルなので(スポーツ多し)、無料で見られる「民放」は2つしかない(今はデジタル化で一気にチャンネル数が増えたが、日本と同じであまりメジャーじゃない)。

どこの国でも、公共放送の位置づけと、受信料の徴収の仕方は、判断が難しいようだ。

更についでに、もう一つ言わせてほしい。前から叫びたかったのだ。

どのチャンネルでも、コマーシャルに入る時と終わる時に、「CMですよ」と知らせる、数秒の合図映像みたいなのが入る。どの局も工夫していて、ちょっと面白い数秒間だ。

このフランス方式に慣れると、日本のテレビは、見ていられない。「え、答えはなんだろう!」「次の展開は?!」などと身を乗り出した面白い瞬間に、いきなりブチッと切れてCMに入るからだ。

「これを子供の頃から見続けて慣らされたら、絶対に集中力やメンタルに問題が生じる脳になるだろうな」と常々思っている(私が子供のころは、今みたいに、ここまでひどくなかった)。

法律で規制するべきだ。(N国さん、これも主張して頂けませんかね?)

さて、「NHKをぶっ壊す!」の「NHKから国民を守る党」であるが、あまりやりすぎると、海外をみならうのが大好きな日本人の官僚(と政治家)は、フランス方式にして税金化してしまうかもしれないから、注意したほうがいいのではないか。災害放送の重要性は高いとはいえ、果たして税金化したNHKにジャーナリズム魂が残るかというと・・・どうだろう。

言っておくが、フランスは、革命の伝統もあって、左派が大変大変強い。日本とは違う。マクロン大統領は、国民の「生活が苦しい」という声に応えて、住税という税金そのものをなくそうとしたほどである(地方税なので、地方の猛烈な反対にあったが)。

住居税は段階的に廃止が決まっており、2019年には8割が住居税3分の2の減税を受ける(黄色いベスト運動のおかげ?)。2023年には全廃される。

(でも、次の大統領選で、大統領と政権党が変われば、この政策も変わってしまうかもしれないけど。アメリカみたいに)。

ここで疑問が生じる。住居税に組み込まれているオーディオ・ビジュアル税は、果たして一緒に廃止されるのだろうか? 大臣の発言によると、どうも無くならずに残るらしいのだが、よくわからない。

この記事を読んで「受信料をフランス方式にして、税金化して徴収してしまえ!」と思う為政者がいたら、日本と同列に考えるべきではないと、クギを刺しておきたい(真似するなら、税金軽減か廃止のほうを真似してください)。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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