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唐津・虹の松原をひたすら進み辿り着く、絶品“天竺ラーメン”

上村敏行ラーメンライター
見た目はどシンプル。豚骨の強者がそろう唐津にできた鶏ラーメンの新店が好調だ

佐賀県の北西に位置する唐津市は、心底すばらしいと感じる場所だ。

玄界灘に面し、唐津城、虹の松原など息を飲むような絶景ポイントが多数。そして、なんといっても飯がうまい。呼子のイカの活き造りは有名であるが、いい魚がそろうだけに当然、うまい寿司店も集まる。そして、ステーキ、ハンバーグなど洋食の名門もそろい、加えて甘味では豊臣秀吉も食べたとされるけえらん饅頭。九州出身者なら「唐津に来ています♪」のCMでお馴染みの松露饅頭など。

福岡方面から二丈浜玉道路、木漏れ日が心地よい虹の松原を通り唐津市街へとGOGO! この先に絶品ラーメンが待つ
福岡方面から二丈浜玉道路、木漏れ日が心地よい虹の松原を通り唐津市街へとGOGO! この先に絶品ラーメンが待つ

このように唐津の美味は枚挙にいとまがないが実は、ラーメンも、とんでもなくうまい!のである。

唐津ラーメンは、佐賀ラーメンのより限定された地域にフォーカスしたご当地麺の呼び名であるが、佐賀ラーメンと唐津ラーメンはまた異なる魅力がある。現在、唐津ラーメン3巨頭といえば「竜里」「一光軒」「田の久」。そして、閉店した伝説的店「一竜軒」の多大なる功績も忘れてはならない。それら唐津ラーメンの歴史、魅力については「実は、ラーメンも激うま! 佐賀県・唐津市の名豚骨4選」(Qualities豚骨注入!)を読んでもらいたい。

そして今回紹介するのは、2024年8月、唐津市東町に登場した新店「天竺ラーメン」だ。

まだオープンしたばかりであり、「唐津ラーメン」ではなく、「唐津“の”ラーメン」という位置付けにはなるだろうが、かなりのうまさであったのでレポートする。

「天竺」は新店であるが味、佇まいもすでに地域に馴染んでいる
「天竺」は新店であるが味、佇まいもすでに地域に馴染んでいる

最初に言っておくと唐津の「天竺ラーメン」は豚骨でなく“鶏”のラーメンである。スープの素材に豚骨は一切使わない正真正銘の非豚骨。そして、その歴史は17年前にさかのぼる。2007年、福岡市別府の細路地に同名の豚骨ラーメン店があった。現在の唐津の店を営む柳瀬英樹さん(昭和46年福岡市生まれ)の原点の場所である。当時は、近くに九州大学六本松キャンパス(現在は糸島市へ移転)があり、その裏手には「天国ラーメン」というラーメン店&スナックもあった。“天国から天竺へ”。そんな“ありがたや”のラーメンはしごを筆者もほろ酔いで楽しんでいたものだ。その後、福岡市大橋、福岡県筑紫野市、同県糸田町へと移転。2024年8月には、上記唐津ラーメン記事内の「なおちゃんラーメン唐津店」の店主と親交があったことから場所を引き継ぐ形でオープンした。筆者は柳瀬さんと長い付き合いであるが、彼のラーメン人生は本当に紆余曲折、いろいろとあった。「17年前はある意味テングになっていて、てっぺんをとるつもりで『天竺』という屋号にしましたが、そんなに甘くはなかったですね。鼻を折られるようなありがたい経験を積んだ末、現在もあえて「天竺」を掲げています。けれど僕の中での意味合いは昔とは全く異なっていて、少し大袈裟かもしれませんが、長き道のりを歩いてきた修行僧のような謙虚な思いをもっていますね。残りの人生を唐津に捧げたいという覚悟です」と柳瀬さん。

「天竺ラーメン」店主の柳瀬英樹さん。「唐津の方はとてもラーメン熱が高いと実感しています。たくさんの実力店がある中で、ランチの選択肢としてウチを加えていただければ」
「天竺ラーメン」店主の柳瀬英樹さん。「唐津の方はとてもラーメン熱が高いと実感しています。たくさんの実力店がある中で、ランチの選択肢としてウチを加えていただければ」

先に少し触れたが、もともと「天竺」は豚骨ラーメンの店であった。しかし、柳瀬さんは自身が年齢を重ねるごとのラーメンに対する好みの変化や、豚骨王国の中でより個性を出すために少しずつ鶏のラーメンへとシフト。味の研究をする際、かつて居酒屋勤務時代に鶏ガラベースのモツ鍋を作っていた経験が生きた。「まずは豚骨ラーメンから、鶏ガラと豚のゲンコツを使う中華そばに変えました。その後、自分が“うまいと感じる”ポイントの変化もあるかもしれませんが、より“鶏感”のあるラーメンを追求するように。結果、鶏と水だけで取るスープに行き着きました。唐津も豚骨が主流で、しかも濃厚系が根付いています。鶏ラーメンでもそれらのパンチに負けないよう以前より3、4倍の鶏ガラ、モミジ(鶏の足)を使っているんです」と柳瀬さんが教えてくれた

1番釜に組み上げられた大量の鶏ガラとモミジ。2番、3番釜のスープとブレンドし、鶏と水だけで重厚感を出す
1番釜に組み上げられた大量の鶏ガラとモミジ。2番、3番釜のスープとブレンドし、鶏と水だけで重厚感を出す

あっさりでなく、しっかりとパンチのある鶏中華そば「天竺ラーメン」は、炊き時間、濃度の異なる3本の寸胴のスープをブレンド。豚骨ラーメンでいう“呼び戻し”の要領で濃厚な鶏スープに仕上げる。ラーメンダレには、ふくよかな甘味のある福岡市「ジョーキュウ醤油」を採用。同市の名製麺所「川原製麺」謹製のしなやかな中細ストレート麺を合わせている。

口の中で踊るような食感、コシのある特注麺。スープは塩気もバリッと効き、デフォルトでゴマが振り掛けられている
口の中で踊るような食感、コシのある特注麺。スープは塩気もバリッと効き、デフォルトでゴマが振り掛けられている

「天竺ラーメン」のスープを飲むと、黄金色の鶏油のまろやかさと共にガツンとした鶏の旨みが口いっぱいに広がる。確かに豚骨ラーメンに負けないパンチ。豚うでを使った肉肉しいチャーシューも申し分のないうまさだ。

「『天竺ラーメン』のほかにも、1番出汁のみを使ったよりあっさり清湯系の『中華そば』やマイルドな『味噌ラーメン』も用意しています。強烈な個性ではなく、目指したのは日常的にそっと寄り添うような味と値段。地元の方のいつもの店として、観光で訪れた方にも新たな選択肢として一度お越しいただけると幸いです」と柳瀬さん。

豚骨ラーメンでなくとも、例えば「関東軒」や「むらまさ」をはじめ醤油ラーメンも「唐津ラーメン」にカテゴライズされるなど、その懐は深い。ただし、それは真の意味で“地元の愛され店”になってこそのことである。

「天竺」は新店ながら、長くそこにあったかと思えるほど地域に溶け込み、ローカルの客も多い。唐津“の”ラーメンから唐津ラーメンへ仲間入りする日も近いだろう。

【天竺ラーメン】
住所:佐賀県唐津市東町73-6
電話:なし
時間:10:00〜15:00
休み:水曜
席数:20席(カウンター6、テーブル14)
駐車場:10台(無料)

ラーメンライター

1976年鹿児島市生まれ。株式会社J.9代表取締役。2002年、福岡でライター業を開始。同年九州ウォーカーでの連載「バリうまっ!九州ラーメン最強列伝」を機にラーメンライターとして活躍。各媒体で数々のラーメンページを担当し、これまで1万杯以上完食。取材したラーメン店は3000軒を超える。ラーメン界の店主たちとも親交が深く、ラーメンウォーカー九州百麺人、久留米とんこつラーメン発祥80周年祭広報、福岡ラーメンショー広報、ソフトバンクホークスラーメン祭はじめ食イベント監修、NEXCO西日本グルメコンテストなど審査員も務めてきた。その活躍はイギリス・ガーディアン紙、ドイツのテレビZDFでも紹介

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