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熊本ラーメンのアイコン“ニンニクチップ”を極める店。ネクスト店は営業時間、出すラーメンも深すぎる

上村敏行ラーメンライター
2024年5月にオープンした「圭ちゃんラーメン」の「〆ラーメン」

言わずと知れた豚骨アイランド・九州には多数のご当地豚骨が存在する。最もメジャーな博多ラーメンは豚骨×細麺に替え玉文化、佐賀ラーメンは卵黄が顔的存在、鹿児島ラーメンはライトな豚&鶏共出しスープで大根の千枚漬けが名脇役、などの特徴がある。一方、明確な定義、違いはないものの“より限定された地域にフォーカスしたご当地豚骨”も存在。例えば、北九州ラーメン、大牟田ラーメン、筑豊ラーメン、唐津ラーメンなどがそうだ。

そんな我が愛すべき九州豚骨の中で、特に分かりやすいアイコンをもっているのが熊本ラーメン。そう。古くから「熊本ラーメンといえばニンニクチップ」なのである。熊本ラーメンの歴史や、“揚げ”“炒り”“マー油”など、ニンニクの妙については、「豚骨伝播の中継地点 熊本・玉名ラーメンの必食3杯」(Qualities 豚骨注入!)にも詳しく書いてあるので見てもらいたい。

そして、今回。

筆者が熊本ラーメンの中でも惚れ抜く「天外天(てんがいてん)」のニンニクは発明品である。という話と、「天外天」店主・小田圭太郎氏が2024年5月、自らの名前を掲げて出した夜特化の小バコ店「圭(けい)ちゃんラーメン」をえらく気に入ったので紹介する。

この人が熊本ラーメンのキーマン小田圭太郎氏。「圭ちゃんラーメン」の厨房で一人、ひたすら豚骨と対話する
この人が熊本ラーメンのキーマン小田圭太郎氏。「圭ちゃんラーメン」の厨房で一人、ひたすら豚骨と対話する

「天外天」「圭ちゃんラーメン」店主・小田圭太郎氏は1977年熊本出身。20代前半は、熊本市街のスナックでボーイをしていて、先代が迎える「天外天」(1989年創業)の常連であった。「深い時間のパワー充填のラーメン。“豚骨の旨味がじんわりと染みるラーメン”に惚れて通い詰めていました。ご近所同士でしたから先代の清永さんとも親交が深まり、自分の仕事の合間にヘルプで皿洗いもしていましたね」と懐かしむ小田さん。その後、大好きなラーメンへの思いが弾け2000年にアルバイトから「天外天」に入門。ラーメン職人として頭角を表し、2013年には先代の清永氏から正式に2代目として継承した。

「圭ちゃんラーメン」があるのは、かつて「天外天」の本店があった飲屋街のビルの最奥。小田圭太郎氏の理想系を実現した店
「圭ちゃんラーメン」があるのは、かつて「天外天」の本店があった飲屋街のビルの最奥。小田圭太郎氏の理想系を実現した店

「天外天」のニンニクは熊本の中でも珍しく、柔らかいパウダーのようにふんわりとしている。ニンニクの風味をしっかりと感じるが、どぎつくなく、パンチの中に淡さ、上品さ、いい感じの“含み”“余韻”があるのだ。ギトギト感がないので多くの人が「ニンニクたっぷりなのに、思ったよりあっさりと食べられた」と称するのではないか。これはやはり、“飲屋街の夜専ラーメン”が原点であることに由来している。飲んだ後にもサラリといけるような濃度、塩気、あくまで名脇役としてのニンニクとのバランスを突き詰めたものだ。

スライスした生ニンニクをラードで揚げ、キメ細かく砕いた自家製ニンニクパウダー。それは一般的な熊本ラーメンとはまた異なる「天外天」の顔になった。

ここで気になるのが、熊本ラーメンといえばの存在へと登り詰めた「天外天」と新店の「圭ちゃんラーメン」、この2店をどのように差別化しているかということだ。ニンニクを含めビジュアルは似ているが、実は、また異なるコンセプトで作られている。

このニンニクが浮いた豚骨ラーメン。“マジで”うまい!
このニンニクが浮いた豚骨ラーメン。“マジで”うまい!

「圭ちゃんラーメン」は、かつて「天外天 本店」があった同じビルのさらに奥、ぽわりと淡い照明に浮かんだアプローチを進んだ先にある。カウンター7席のみの屋台のような店に、小田圭太郎氏自らが立ち、仕込みからストイックに豚骨をグツグツ。これまで、時に1日数千杯も作ってきた熟練の豚骨職人である小田氏が、目の前の数人の客とだけ向かい合う特別な空間。木・金・土曜のみの21:00〜翌1:00の営業、メニューはラーメン、替え玉、缶ビールのみ。サイドメニューは全くなく、トッピング、チャーシューメンなど具の変化すらない。業態も出しているラーメンも深い。

「お客様の様子を見ながら、塩気やニンニクの量を変える。原点に帰ったようで単純に楽しいですね」と目を輝かす小田さん
「お客様の様子を見ながら、塩気やニンニクの量を変える。原点に帰ったようで単純に楽しいですね」と目を輝かす小田さん

「お客様の笑顔を間近で感じられる原点回帰の店。熊本の地元民がノスタルジーを感じてもらえるようなラーメンに仕上げています。具体的には、深夜型なのでより“さっぱりと塩気を効かせた”塩梅に。豚骨と共に鶏ガラの旨味も効かせています。ニンニクは『天外天』とはまた製法を変えて、コーヒーを焙煎するような感覚で“ロースト”。それを細かく砕いて、“飲んだ後の〆にじんわりと染みる”をより意識したものにしています」と、仕込みをしながら小田さんが教えてくれた。

麺も自家製。断面は“丸”の中細ストレート麺で1玉茹で前130g。しなやかなコシのある麺にスープ、ニンニクの粒がよく絡んで旨いのだ。

昭和の時代より愛される「熊本ラーメン」も、他エリアのご当地麺と同じくボーダーレス化が進み、多彩な新味が続々と登場している。その中で「天外天」は先頭に立ち、THE・熊本ラーメンを引っ張っていく役割であることは間違いない。しかし、今回紹介した系列の新店「圭ちゃんラーメン」は、それとはまた切り離した、いちラーメン職人・小田圭太郎氏が自由に、自分の好きを詰めた店だ。

楽しい熊本ナイトの〆にはマストで訪れてもらいたい超名店である。

【圭(けい)ちゃんラーメン】

住所:熊本市中央区安政町2-15

電話:なし

時間:21:00〜翌1:00

休み:月・火・水・日曜(木・金・土曜のみの営業)

席数:7席(カウンターのみ)

交通:熊本市電水道町駅より徒歩3分

ラーメンライター

1976年鹿児島市生まれ。株式会社J.9代表取締役。2002年、福岡でライター業を開始。同年九州ウォーカーでの連載「バリうまっ!九州ラーメン最強列伝」を機にラーメンライターとして活躍。各媒体で数々のラーメンページを担当し、これまで1万杯以上完食。取材したラーメン店は3000軒を超える。ラーメン界の店主たちとも親交が深く、ラーメンウォーカー九州百麺人、久留米とんこつラーメン発祥80周年祭広報、福岡ラーメンショー広報、ソフトバンクホークスラーメン祭はじめ食イベント監修、NEXCO西日本グルメコンテストなど審査員も務めてきた。その活躍はイギリス・ガーディアン紙、ドイツのテレビZDFでも紹介

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