なぜシティはハーランド獲得を決めたのか...“ペップの思考”とビッグイヤー獲得の野望。
監督として、すでに全てを勝ち取っている。だがペップ・グアルディオラ監督は手を止めようとしない。
マンチェスター・シティは2021−22シーズン、劇的な形でプレミアリーグ優勝を成し遂げた。最終節のアストン・ヴィラ戦、2点を追う展開で残り5分からスコアをひっくり返してタイトルホルダーとなった。
一方で、チャンピオンズリーグの舞台では、タイトルが遠い。
近年、レアル・マドリー(21−22シーズン/準決勝)、チェルシー(20−21シーズン/決勝)、リヨン(19−20シーズン/準々決勝)、トッテナム(18−19シーズン/準々決勝)といったチームに行く手を阻まれてきた。
グアルディオラ監督には、「考え過ぎる」ところがある。普通にしておけば、という場面で、しばしば奇策を講じる。そこからチームが崩れ始め、勝利を逃してしまう。ビッグクラブが相手では、そこを見逃してはくれない。
無論、その策が当たれば、効果は大きい。最たる例が、バルセロナ時代のリオネル・メッシの起用法だ。当時、右ウィングでドリブルと突破力を売りにしていたメッシを、グアルディオラ監督は3トップの中央に配置した。ファルソ・ヌエベ(偽背番号9/ゼロトップ)の発明である。
メッシ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタを中心にしたチームは破壊的な攻撃力を有していた。「チキ・タカ」と呼ばれるパスを繋ぐフットボールは世界を席巻して、バルセロナに黄金時代が訪れた。
グアルディオラ監督は2009年と2011年にバルセロナをチャンピオンズリーグ制覇に導いている。以降、ビッグイヤー獲得の経験はない。これは偶然ではないだろう。
■ハーランドという新戦力の加入
シティは今夏、アーリング・ハーランドを獲得している。契約解除金6000万ユーロ(約84億円)をボルシア・ドルトムントに支払うことでハーランドの獲得を決めた。
当然ながら、グアルディオラ監督はハーランドの獲得を求めていた。その一方で、フェラン・ソリアーノCEO、チキ・ベギリスタインSD(スポーツデイレクター)の力も大きかった。彼らとグアルディオラ監督の信頼関係が、ハーランドの獲得につながった。
「獲得を決めたクラブを祝福したい。若く才能ある選手が、シティへの移籍を決断してくれて、嬉しい。来シーズン、我々は一緒に働く。彼の適応を助けたい。街のこと、家のこと、その他諸々…。我々のトレーニング方法に顧みて、すぐに適応してくれるだろう」
「彼にゴールの責任を負わせるような真似はしない。チームとして、勝たなければいけない。チームで攻めて、出来る限り多くのシュートを打たなくては。そこまで持っていければ、ハーランドのクオリテイを含め、ゴールを決められるはずだ」
これはグアルディオラ監督の言葉だ。
■ケインの獲得を逃して
昨年夏、シティはハリー・ケインの獲得に失敗した。ダニエル・レヴィ会長が譲らず、トッテナムとの交渉は難しかった。
およそ2シーズンにわたり、グアルディオラ監督はシティでゼロトップを使用してきた。フィル・フォーデン、ラヒーム・スターリング、ベルナルド・シウバらがそのポジションで起用されてきた。
だがチャンピオンズリーグの壁は厚かった。プレミアリーグの優勝は、もちろん、称賛に値する。ただ、欧州の頂点に立つには、もうひとつギアを上げる必要がある。
ハーランドは、チャンピオンズリーグで19試合に出場して23得点をマークしている。ビッグマッチでもゴールを奪えるというのは、証明済みだ。
21−22シーズン、シティはマドリーに敗れて欧州の舞台から姿を消した。
なお、08−09シーズン、メッシのファルソ・ヌエベが発明されたのは、クラシコにおいてだった。いずれも、相手はマドリーだった。長年のライバルと相手に、ゼロトップが生まれ、そして「死ぬ」――。ハーランドの獲得は、深い意味を含蓄して、シティのビッグイヤー獲得の挑戦へとつながっていく。