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入管法改正をめぐる政策形成について(2)

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
日本でも確実に外国人が増えてきている(写真:アフロ)

               …前号から続く

2.最近の外国人受入れをめぐる議論や対応

 このように外国人受入は徐々にではあるが進んできた。他方で、特に少子高齢化の急速な進展等により、生産年齢人口が急速に減少してくることになる。

より具体的にいえば、厚生労働省の予測によれば、日本の生産年齢人口は、2017年に6,530万人、2025年時点では6,082万人、さらに2040年には5,245万人にまで減少する。男性労働者の数は2017年から2040年の間に、男性労働者は711万人減少し、女性労働者は575万人減少する見通しである(下図参照)。

 このような急速な生産労働人口の減少および更なる減少な予想される状況において、特に全国のいくつかの地域、中小企業や小規模事業者、特定業種等においては、人手不足の問題への対策の要望等が高まり、外国人人材を受入れる方向に進んでくるのである。

出典:OECD Historical Popupation Data and Projections(1950-2050)
出典:OECD Historical Popupation Data and Projections(1950-2050)

 このような人手不足の深刻化を受けて、経済・社会・地域における持続可能性の崩壊への危惧が日本国内でも生まれると共に、経済界から人手不足解消を求める声に押されて、政府は、さらに踏み込んだ対応をしていくことになる。それが、2018年6月15日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018―少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現―」(骨太の方針)である。

そこにおいてはまず、「設備投資、技術革新、働き方改革などによる生産性向上や国内人材の確保を引き続き協力に推進すると共に」と指摘し、まずは従来からの国内人材の優先性を上げながらも、「従来の専門性・技術的分野における外国人材に限定せず、一定の専門性・技術を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する必要がある」という方針を打ち出し、厳密な移民政策とは異なるが、外国人材受け入れ拡大のために、新しい在留資格を創設するとしたのである。

 また、従来の外国人人材の受入れをさらに促進するために、留学生の就職促進、高度人材のポイント制の見直し、介護人材の受入れ要件などの再検討、クールジャパン関連や起業における外国人対応の検討を進めることとした。

 このような対応を通じて、25年ごろまでに50万人超の外国人労働者の受入れの拡大を目指すこととしたのである。

 さらに、滞在する外国人がより増加すると見込まれる中において、日本において働き、生活する外国人のための生活環境の整備が重要であるとも指摘される。そのために、先に策定された「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」(2006年策定)を抜本的見直し、総合的調整機能を有する法務省の指令塔的役割および関連省庁や自治体等との連携強化も盛り込んでいるのである。

 これを受けて、「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」が開催され、2018年7月には、その第一回会合において、「外国人の受入れ・共生のための総合的対応策(検討の方向性)」の案が、その中間的な整理として示されたのである。

それによると、外国人を生活者として支援するとして、次のような政策項目が提示された。

・円滑なコミュニケーションの実現(日本語教育の充実等)

・暮らしやすい地域社会づくり(多文化共生、教育・災害対応等の分野における外国人の活躍の促進等)

・子どもの教育の充実

・労働環境の改善、社会保険の加入促進等

・受入れ企業や登録支援に対して、外国人材の円滑な受入れ促進のための支援の具体化

・海外での日本語教育の充実等

・新たな在留管理体制構築のために法務省の体制の充実・強化(外国人の在留・雇用状況の正確な把握等)

 政府は、その後、取組の拡充や具体化の検討を進め、最終的なとりまとめのために、法務省に「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応検討会」が2018年8月に設置された。

 その流れのなか、次のような決定がなされた。

・第3回「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」(2018年12月25日開催)で、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」が決定。

・第5回「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」(2019年6月18日開催)で、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策の充実について」が決定。

・第6回「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」(2019年12月20日開催)で、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(改訂)」が決定。

 「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策の充実について」(2019年6月18日策定)にそって、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(2018年12月15日作成)を改訂し、関係省庁で連携し、次のように着実に実施すると共に、今後も対応策の充実を図ることを明示した。

*外国人材の円滑かつ適正な受入れの促進に向けた取組(特定技能外国人の大都市圏その他特定地域への集中防止、特定技能試験の円滑な実施等)。

*生活者としての外国人に対する支援(地方自治体への支援拡大、外国人共生センター[仮称]の設置、多言語対応、日本語教育の充実、留学生の就職支援強化等)。

*新たな在留管理体制の構築(在留資格の厳格化、技能実習生対策、有効な相関方法等の在り方や法整備を含む措置の検討)

・「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(改訂)」(2019年12月20日外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議決定)に関する2019度補正予算及び2020年度当初予算が取りまとめられた。

 このようにして、日本政府は、「移民政策」はとらないと主張しながらも、様々な形でかつ積極的に外国人材受入れの方向に進んできたのである。

 他方で、これらの外国人材受入れの流れの中、日本国内でも様々な議論などが行われるようになっていったのであるが、その状況についてもここでみていこう。

まず、政治おける外国人材受入れの流れについてみていこう。

 これまで論じてきたことからもわかるように、戦後日本では外国人移民はある意味タブーであり、積極的に論じられることはなかった。他方、政治においても、人口減少や少子高齢化が予測されるようになり、労働力不足から、外国人材受入れの議論が始まるようになる。

多様な外国人人材の受け入れが必要になってきている
多様な外国人人材の受け入れが必要になってきている写真:イメージマート

 与党自民党内には、2005年12月13日に、外国人材交流推進議員連盟が設立され、2008年6月には、日本の人口減少社会の危機を救いその国力を伸ばすためには、その効果的な治療法として海外からの移民受け入れ以外にはなく、今後(当時)50年間で総人口の約1割に当たる約1000万人程度の移民を受け入れ、『多民族共生国家』を目指すために、外国人受け入れに関する基本方針となる「移民法」の制定や移民政策を担当する「移民庁」の3年以内の設置、外国人儒泯台帳制度の導入、在日外国人への行政サービス提供体制の整備、永住権や国籍の取得条件の緩和などの人口減少対策案をまとめて、福田康夫総理(当時)に提案した。

 同連盟の中川秀直元幹事長は、当時、自民党国家戦略本部(本部長:総理)にプロジェクトチームを設けて、その詳細を詰めることを考えており、この問題に積極的に働きかけていた。だが、翌年(2009年)9月の総選挙で、自民党は野党になり、実現の可能性が低下すると共に、党内での議論は広がらなかった。与党となった民主党(当時)は、外国人の参政権の可能性を提案するなど外国人材の受け入れに対して寛容であったといえるが、外国人からの政治献金や党幹部の国籍問題等で政権が右往左往し、この問題が政権や党内でその実現について進展したとはいえない。

 2012年12月に実施された総選挙で、自民党は政権に返り咲くが、先述したようにこの政策の中心であった中川氏は、政治活動はその後も継続しているが、同選挙には出馬せず、その政治的影響力は低下し、政治の側の当該政策の推進役を失っていった。

 ところが、2013年5月には、自民党国際人議員連盟が、外国人材交流推進議員連盟を発展させる形で、発足した。その後、少子高齢化による日本の人口減少はさらに進展し、労働力の確保は待ったなしの状況を迎えるようになるが、2012年12月自民党が政権に返り咲き、また安倍晋三が再度総理に就任したが、その後労働力確保のために、自民党は2016年3月中旬に、「労働力の確保に関する特命委員会」(委員長:木村義雄参議院議員)を立ち上げ、翌4月に外国人労働者の受入れの拡大にめけて提言をまとめ、政府に提出した。

 そのなかでは、次のようなことが提言された。

・政府が従来原則容認していない建設作業員等の「単純労働者」の受入れも必要性がある分野については個別精査して進めるべきとし、外国人労働者政策の抜本的転換を求めた。

・「単純労働者」の呼称自体が、外国人労働者の受入れに消極的な意味合いの用語として使用と主張。

・「移民」と「入国の時点でいわゆる永住権を有する者」であり、「就労目的の在留資格よる受け入れは『移民』には当たらない」と独自に定義し、「移民政策」に踏み込まず、「移民」以外の外国人の受け入れの対象と位置付け。

・受け入れ拡大による治安の悪化や日本人とのトラブル等の懸念を抑制するために、受入枠の設定や後刻側との緊密な連携の必要性。

 また、このようにして、自民党支持母体である保守勢力からの移民政策や外国人材受入れへの従来からの反発が強まることへの危惧も感じながらも、政治の側(特に政権与党自民党内部)でも、急速に外国人労働者の受入れの議論が急速に高まったとはいいがたいが、徐々に外国人材活用への雰囲気づくりが成されていったのである。

 その後も、自民党内の政務調査会(政調)の関連する委員会や派閥の勉強会等では(注16)、外国人人材をテーマにした会合が開催された。しかし、このような会合には基本的にテーマに関心あり議員しか参加しないのであり、参加人数も必ずしも多くなかったという事実を勘案すると、労働人口の減少などの切実な問題が根底にもあるにも関わらず、このテーマの議論が自民党内で急速に広まったというよりも、徐々に理解が広まった程度であったと考えるべきであろう。

 そのような中、保守勢力の間でも支持の高い安倍晋三総理は、2016年には「働き方改革」を前面に打ち出し、積極的な対策をとるようになる。そしてその一環かつ重要な項目の一つとして、「外国人材の受け入れの問題」についても正面から取り上げるようになってくるのである。またこのことは、別のいい方をすれば、外国人材の受け入れに反発や慎重論が根強い保守勢力に支持され、保守的色彩が強い、安倍総理だからこそ、この外国人材の受け入れと活用の方向に一歩進めることができたということもできるであろう。

 この政権の流れが、先の政治・政権や行政の動きに繋がっていったということができる。

 さて、ここで、並行する形で、政治や行政において、外国人材受入れとその拡大化の流れが加速する中、日本国内でも、新しい在留資格の創設等についての賛否をめぐる議論が高まってくる。そこで、ここでは、その近年における議論についてみていこう。

 それに関しては、大きく分けて、「受入れ拡大に関する議論」および「受入れ環境整備に関する議論」の2つの議論があったということができる。

(1)受入れ拡大に関する議論…前向きな評価と慎重論

 公益法人日本国際交流センター執行理事の毛受敏浩氏らは、新たなる在留資格創設は、日本におけり現状に即した大きな方針の転換であり、「単純労働者」を受入れる仕組みを初めて本格的に導入するものであると評価し、積極的に外国人材受入れを推進し、人口減少や少子高齢化の中で労働力の減少や不足をカバーし、成長率の向上、地域人材の不足・減少の解消、生産性の向上等に繋がると主張した(注17)。

 他方で、このような受け入れ拡大に対して、次のような論点から様々な慎重論も存在した。

・単純労働分野の受入れをなし崩し的に拡大する危険性があり、近視眼的拙速であるとの批判(注18)。

・日本人の雇用および賃金水準への悪影響や企業の生産性向上への悪影響への懸念(注19)。

・外国人の受入れによる社会的コスト(教育や生活支援等におけるコストなど)の発生(注20)。

・先決事項(国内の活用されていない労働力の活用促進や人手不足分野の待遇改善など)の存在(注21)。

(2)受入れ環境整備に関する議論

 政府は、このような様々な議論が起きる中で、入管法の改正を図っていったが、政府も与党自民党も、それらの対応は基本的に「移民政策ではない」というスタンスを取り続けた。  

 他方で、その改正により、「特定技能」という在留資格が創設され、技能実習を経過し特定技能に移行できれば、通算して10年の在留が認められるようになることから、政府のスタンスはどうあれ、今後、外国人が長期的に日本在留の可能性が生まれると考えられたために、次のような受け入れ環境整備に関する議論が起きたのである。

・日本で外国人が生活するための支援策(日本語習得および受入れ家族の子どもの教育の支援等)の充実の必要性の議論(注22)。

・政府の当時の支援策への検討を超えた、中長期的視点に立った対応(多文化共生のための基本法の制定や「移民庁」や「外国人庁」のような外国人に対して一元的に施策を行える省庁横断的組織の設立)への議論(注23)。

・在留する既に多くの外国人の存在やその対応の自治体任せの現状を踏まえて、在留外国人への国による積極的な政策や関与の必要性の議論(注24)。

 このように政治や世論においても、この点での議論が必ずしも急速かつ深く広まったとはいいがたいのが現実ではあった。だが、安倍政権は、慎重も依然強かったが、日本の人口構成における少子高齢化や労働生産人口が急速に減少する現実の中、日本の一部地域、産業分野および財界・経済界などからの要望から、急速に外国人人材の受入れの方向に急速に舵を取っていくのである。

 その方向の転換においては、最近は安倍総理との関係において距離が生まれ、その影響力が低下しているとも言われるが、安倍政権において少なくともこれまで大きな影響力があると言われてきている菅義偉官房長官が、外国人人材受入れの決断に大きな役割を果たしたと言われる(注25)。菅官房長官は、2017年秋の時点で、外国人人材なしで日本経済が回らなくなってきている状況に関する声を聞いており、その受入れに関する政権での決断をすると共に、その後も関係者の意見を聞いたり、自身も関連の政策や法整備等について発信した。

 そして、平成30年(2018年)2月20日開催の第2回経済財政諮問会議において、安倍総理は、「現在の深刻な人手不足の現状に対応するため、専門的・技術的分野における外国人受入れの精度の在り方について、在留期間の上限を設定し、家族の帯同を認めないといった前提条件の下、真に必要な分野に着目しつつ、制度改正の具体的な検討を進め、今年の夏に方向性を示すために、官房長官及び法務大臣に対して、各分野を所管する関係省庁の協力を得て、早急に検討を進めるよう」という総理指示を発出したのである。

 それを受けて、「専門的・技術的分野における外国人材の受入れに関するタスクフォース」(議長:内閣官房副長官補[内政担当]、構成員:法務省入国管理局長をはじめとする関係府省局長級)および「専門的・技術的分野における外国人材の受入れに関する幹事会」(議長:内閣官房内閣審議官、構成員:法務省大臣官房審議官[入国管理局担当]をはじめとする関係府省課長級)が設けられて、短期間に週2回程度という頻繁かつハイペースな形で会合をもち、主要検討課題、主要業種ごとの実態把握、受入れ業種判断の考え方、受入れ対象者に求められる日本語能力や専門性・技能の程度、在留管理・支援体制の在り方等について議論し、具体的な検討を行った。

 またこのように、政府・政権での外国人材への議論が始まる前後からは、野党各党内でも、この問題に対する関心が高まり、様々な議論が起きるようになる。だが、これも関係者の話によれば、外国人人材の受入れへの反対はなかったとのことではあるが、与党自民党においてと同様に、関心のある一部の議員による議論の域を出なかったようだ(注26)。そのために、後述する国会での与野党の審議になると、政策論議というよりも、政局的扱いがなされることになるのである。

 ここで、政権内の動きなどが、今回の入管法の改正になぜ繋がっていったかについて理解していただくために、実際に法改正の議論や動きとは別に、日本の政策形成における仕組みや状況について説明しておく必要があると考える。

 日本は、議員内閣制をとっている。この政治制度は、国会(特に衆議院)で多数を形成した政党が、内閣を組閣することになっている。現在での内閣を構成する政権党(与党)は自民党と公明党である。しかも、国会に提出され法律案などの多くは、内閣提出法案(閣法)といって、内閣(厳密には行政)が作成している。

 しかも与党内(特に自民党)では、政策や法律案に関して事前承認制をとっている。この仕組みは、政策や法律案は国会に提出・審議される前に、与党内(主に自民党内、現在は連立与党なので、公明党との事前調整が図られる)で審議される。閣法の場合も、このような与党内審議がされるが、その場合、法案担当の官僚が、与党の会合や議員など議論や意見を反映し、調整を取りながら、最終的に自民党内、また別の与党・公明党とも合意をとっていくのである。そして、与党内で合意された法案などは、党内の事前承認をされた形になり、与党内の議員はその内容に従うことになっており、同法案等が国会に提出された時点で、実質上国会での過半数以上の合意が成立していることになっているのである。

 このような説明からもわかるように、今回の入管法改正(新しい外国人材の受入れに関する法律)は、行政・政治や社会で関連する様々な議論が背景にあったからではあるが、政権(内閣)の中に、同法改正を推進する力の存在し、それが行政を動かし、政治(国会で過半数を握る政党)に働きかけ、推進されて行ったがゆえに実現したことが理解していただけるであろう。また、日本の現在の政治制度(特に現状のように与党が、国会の議席において圧倒的多数を占めている状態において)では、国会では、野党の意見・審議や法案を反映したり、活かしたりされる余地はないのが現状なのである。

 さて、話を元に戻そう。先に記したような流れの中、政府は、先述した2018年6月15日閣議決定された骨太の方針では、「新たなる外国人材の受け入れ」を打ち出すのである。ここでは、移民政策でないことを明記しながらも、従来と異なり、専門性・技能を有する即戦力となる外国人人材受け入れの仕組みの必要性およびそのための新たな在留資格の創設について言及した。また外国人の円滑な共生についても触れ、「実質的には外国人の定住を容認するものであり、日本にとって極めて大きな歴史的な方向転換の表明」(注27)であったといえよう。

 その後、先述したように行政内部や政治においても様々な議論がされるが、基本的には、その方針に基づいた改正入管法が、2018年11月2日に閣議決定され、同日、同改正法案が国会に提出される。その後の国会での同改正法の審議は、先にも述べたように、野党の立憲民主党内部では対案が作成されていたが、同改正法案に関する廃案と成立や野党側からの法相・首相の問責決議案の提出などの与野党攻防のなか、同改正法案への政策論議が深まることはなく、2018年12月8日、「改正出入国管理及び難民認定法」が、衆議院を経て、参議院で可決、成立したのである。

 この改正法の成立により、「特定技能」が創設され、従来認められなかった単純労働分野で働く在留資格が認められるようになった。また関連法案も可決・成立され、外国人人口の増加に対応するために、法務省入国管理局が「出入国在留管理庁」に格上げされた。

 さらに、政府は、同改正法案の成立を受けて、次のような方針や対策を打ち出した。

・外国人労働者の受け入れ拡大に向けた制度の運用についての基本方針と業種ごとの分野別運用方針(閣議決定、2018年12月25日)

 「基本方針」は、新しい在留資格で受け入れる外国人の支援項目を含んだ新制度の運用のあり方を示したもの。「分野別運用方針」は、施行から5年間における受け入れ見込み数を14業種計34万5150人としたものである。

・外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(関係閣僚会議了承、2018年12月25日)

 これは、政府が、在留外国人に対して責任を持って対処することの表明というべきものである。同関係閣僚会議は、その後も半年に1回程度で開催され、外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策の改訂等が行われている。

 そして、以上述べてきたように、「移民問題」などの本質的な議論を避ける形で、また必ずしも日本国内でのその問題への理解が必ずしも深まることなく、ある意味で、日本の政治のパラドックスの中で生れた安倍政権の居合抜きともいえる、間隙を突いた形で成立された改正出入国管理法が、翌年2019年4月1日に施行されたのである。

 ここまで検討してきた日本における出入国管理や外国人人材への対応をまとめると次のような表になると考えられる。

(注16)毛受(2020年、pp86-89.)を参照のこと。

(注17)これらの主張に関しては、日本経済新聞(2018年6月17日)、毛受(2018年7月2日、および2018年7月24日)、日本経済新聞(2018年8月17日)等を参照のこと。

(注18)これらの主張については、中島(2018年4月27日、同年7月2日)、上林(2018年)、山脇(2018年)等を参照のこと。

(注19)これらの主張については、河野(2018年5月8日および同年8月1日)、横山(2018年)等を参照のこと。

(注20)これらの主張については、日本経済新聞(2018年6月17日)、中島(2018年7月2日)、上林(2018年6月25日)、横山(2018年8月28日)、施光(2018年7月27日)等を参照のこと。

(注21)(注19)と同じ。

(注22)これらの議論については、藤巻(2018年9月4日)、丹野(2018年6月26日)などを参照のこと。

(注23)これらの議論については、山脇(2018年10月2日および2018年秋季[pp.88-89.])、磯山(2018年6月1日)、毎日新聞(2018年7月10日夕刊)などを参照のこと。

(注24)これらの議論については、森(2018年6月28日)、毛受(2018年7月2日)、毎日新聞(2018年9月22日)などを参照のこと。

(注25)毛受(2020年、pp.84-85.)を参照のこと。

(注26)毛受(2020年、pp.88-94.)などを参照のこと。

(注27)毛受(2020年、pp90)。

 なお、本記事の参考文献は、記事「入管法改正をめぐる政策形成について(3)」の最後にまとめて掲載する。

                 …次号に続く…

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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