今年開催のU23ワールドカップで侍ジャパンに立ちはだかるメキシコ:メキシカンウィンターリーグの正体
==ファームとしてのウィンターリーグ==
メキシコには、複数のウィンターリーグがあることはすでに述べたが、入場料を観客から徴収し、野球を生業とするプロ選手、もしくはそれに準ずるレベルの選手でロースターが占められるプロリーグの体裁を整えているのは、4リーグほどしかない。
このうち、「リガ・メヒカーナ・インビエナル」、つまりメキシカンウィンターリーグと名付けられた首都メキシコからその西のグアナファト、ミチョアカン州に至るメキシコ高原に展開されるリーグと、北部、ヌエボレオン州のアカデミーで実施されるルーキー級リーグは、夏のトップリーグ、「リガ・メヒカーナ」、いわゆるメキシカンリーグ直属のファームリーグである。この両リーグと、メキシカンリーグの関係は、米国のメジャーリーグとその傘下のマイナーリーグとの関係に等しい。
かつては、太平洋岸、メキシカンパシフィックリーグの展開されている地域より少し南のナジャリ州の各都市に本拠を置いた「リガ・ノロエステ」が行われていたが、興行的に成り立たようになったらしく、2015年から現在の形に移行した。昨年までは、野球の盛んな南部、ユカタン半島エリアにもうひとつ同様のリーグがあったが、この冬は6チーム制のメキシカンウィンターリーグのみの開催となった。
メキシコのファームリーグの大きな特徴は、1つのチームに複数の球団が選手を拠出することだ。アメリカでは、マイナー球団は特定のメジャー球団とアフィリエイト契約を結び、その球団の選手のみでファームチームを構成するが、メキシコでは、1つのマイナーチームが、メキシカンリーグ2球団の選手を預かるということは珍しくはない。アカデミーで行われるリーグ戦は、2球団の混成チームで行われている。この冬のメキシカンウィンターリーグで言えば、グアナファト州モロレオンのチームは、メキシカンリーグのトロス・デ・ティファナとブラボス・デ・レオンのファーム選手で構成されていた。ただ、2球団1チームは決まったルールではなく、資金力豊富で多くのファーム選手を抱える球団は、単独チームを組んでいる。今季のプレーオフで覇を競った2チームは、首都メキシコシティのディアブロスロッホスとゲレーロス・デ・オアハカが、本拠地、チーム名ともにそのままでウィンターリーグに参加していた。
私が今回取材したのは、両チームの決勝シリーズの第2戦で、球場はディアブロスの本拠、メキシコシティのフライ・ナノ球場。せっかくなので地方に本拠を置くチームを見たかったが、こればかりはどうしようもない。
球場には時節柄大きなクリスマスツリーが飾られており、ケージが設けられ、無料の臨時バッティングセンターが開設されていた。この国ではまだまだ人気面でサッカーの後塵を拝している野球だが、メキシカンリーグは、まずは球場に来てくれるファンに野球という競技になじんでもらおうと様々な取り組みを行っている。
寒い中での観戦にもかかわらず盛り上がるファン
ウィンターリーグと言えば、日本やアメリカとは季節が逆の南半球で行われるリーグというイメージがあるが、実際は北半球の低緯度地域で行われている。ただ、メキシコの場合、リーグが開催されている地域の緯度は北緯20~30度の間。日本の太平洋ベルトがだいたい35度だから、決して低緯度というわけではない。多くの球場では観戦には冬装備が必要である。とくに標高の高いメキシコシティでの観戦環境は決していいとは言えないのだが、ファイナルシリーズということもあり、球場にはサマーリーグの公式戦以上に観客が入っていた。テレビ中継もなされ、ファームリーグとは言え、人気は上々だ。
25歳以下の選手によるファームリーグなのだが、「一軍」が活動していない以上、レギュラー選手でもプレーすることが可能である。この試合では、オーバーエイジ枠を使って、メキシカンパシフィックリーグとの契約を逃した主力選手もプレーしていた。また、11月にパナマで実施されたU23パンアメリカン大会準優勝メンバーのプロスペクトも在籍しているということもあって、レベルはかなり高く、そのことも人気向上につながっているのだろう。
試合は、ホームランが乱れ飛ぶ、逆転に次ぐ逆転の乱打戦となり、最後は1点差で地元ディアブロスが逃げ切った。従来、パワー不足と言われてたメキシコ野球だが、ファームリーグでもパワーヒッターが多い印象で、長打力の面ではすでに日本を超えているように思える。このリーグでプレーした選手の多くは、今年ニカラグア開催されるU23ワールドカップに出場するだろう。メキシコ野球の組織化と競技レベルの向上は年々進んでいる。侍ジャパンにとっても侮れない相手になるに違いない。
(写真はすべて筆者撮影)